非戦の自衛隊T

自衛隊を活かす会編著:「新・自衛隊論」、講談社現代新書、'15を読む。帯に「今守るべきは「非戦のブランド」である」とあったので、この題名にした。国の安全を廻っては、'15年もIS、テロ多発、東シナ海、南シナ海、集団自衛権、安保改正と騒々しかった。このHPを「自衛隊」で検索するとずいぶん出てくる。中にはノイズもあるが、警察予備隊の募集が新聞に報じられた頃から、関心が深かった。見学会(「海フェスタよこはま」('09))にも出掛けたし、武器の常識も仕入れようと勤めてはみた。「潜水艦の性能と戦術」('15)、「オスプレイ」('12)、「銃の科学」('12)、「第5世代戦闘機F-35」('11)、「イージス艦」('09)、「戦闘ヘリ:アパッチ」('10)などの記事を書いている。本書はどちらかと云えば私の苦手な観念論や政策論(「マクロ経営学から見た太平洋戦争」('05)がある)であるが、それも必要と購入を決めた。
周辺国との摩擦は永遠に尽きない。飛び抜けて心配な周辺国は中国で、自衛隊のもっとも警戒する相手だ。異常な空海兵力増強ぶりは、まずは南シナ海の実効支配という形でその意図を明確にした。次の目標は間違いなく東シナ海であろう。ウクライナから買った空母は練習用に使える程度の中味のないガラだけだった。2隻の空母が建造中だが、機動艦隊の中心になるにはまだまだ時間が必要という解析には賛成だ。中国海軍は東シナ海ではそう簡単に自由には行動できないでいる。潜水艦も日本側の探索ネットに引っかかり、南西諸島を隠密に太平洋にくぐり抜けられない。これは何年か前に大きく報道された事件で明らかになった。中国軍首脳部には正面切っては米軍と戦えないという判断があるだろう。
NHK SP「自衛隊はどう変わるのか〜安保法施行まで3か月〜」を見た。尖閣諸島を担当範囲にもつ霧島駐屯の陸上自衛隊の連隊が、近年離れ島防衛の特殊事情に応じた実践的訓練を行うようになった。この番組にアフガニスタンの治安維持を主任務としながら、ゲリラの標的になり、巻き込まれた戦闘で数10名の犠牲者を出しているドイツ連邦軍の紹介があった。PKOと言っても紙に書いた線引きなどほとんど意味をなさない事態が必ずやってくる。グレイゾーンとかガイドラインとかは日々情勢に応じてニアンスを更新してこそ値打ちがあるが、民主主義国の政治家は、事件が起こるまでは、臭い物に蓋でおりたい。
かって尖閣諸島に中国漁民が大挙して押し寄せ上陸する計画が報じられた。海保の沿岸警備船に体当たりをしてくる漁船の映像はまだ生々しく記憶している。「漁民」に仮装した第三列モドキが海難を偽装して上陸し、その漁民保護を理由に中国のコースト・ガードが出動、海保が抑えきれずに海上自衛艦の出動を要請し、中国海軍の出動理由を作る。現実味のある悪いシナリオと感じていたが、日米安保の対象という米側見解により中国海軍に対する愁眉は一旦は取り除かれた。中国はしかし大型コースト・ガードを多数建造中である。海保段階で負けない対抗処置を急ぐ必要がある。中国は瀬戸際のぎりぎりの線まで何でもありの手を打つ。米中のサイバー戦争を仕掛けたのは中国側で、我が国を含め自由圏に対するハッカー攻撃に中国政府機関の存在が疑われている。「1月の概要(2016)」に出すが、大型の隠密裏のやばい行動の噂が中国には絶えない。
トップ会談では習主席は新型大国関係をアメリカに理解させようとした。主義は違っても中国の行動に一定の理解を与え、むやみやたらに対抗しないでくれ、かってのロシアに対するようにと言いたげだ。そのための軍備を初めとする背景の強化に余念がなかった。この正月にはロケット軍創設を発表した。軍の新鋭化が組織にまで及ぶようになった。中国は太平洋では当分は覇権や分割を唱えず、米国との共存を摸索する。南シナ海ではこの正月に南沙諸島の人口島飛行場の試験飛行に成功した。周辺が小国のここでは覇権の既成事実化に注力している。
西進は一帯一路を推し進める。海と陸のシルクロードで世界を繋ぐ構想だ。そのスケールの大きさには感心はする。周辺を圧倒する国力があり、かつ独裁的長期政権でなければすぐ画餅化する構想ではある。毎日新聞は、昨年末に、中国パキスタン経済回廊を特集した。中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタン南西部のグワダル港までの約3千キロに道路や鉄道、電力網、パイプラインの大動脈を築く。中国はすでにグワダル港を43年間租借することでパキスタンと合意している。有事の際のマラッカ海峡迂回ルートである。
元陸上幕僚長・富沢氏の発言に、ミサイル迎撃は当てにならないとあった。例えば大陸弾道弾がきたらまず海上でイージス艦などが迎撃し、くぐり抜けたヤツを陸上部隊のミサイルが迎え撃つと聞いてきた。命中率など秘中の秘だろうが、あった方がいいという程度のものだと云われれば身も蓋もない。でもある程度想定の範囲内の発言だと言える。この元幕僚長の発言は、海上自衛隊は敵の基地を把握していない、現実離れした「南西諸島防衛」、監禁された邦人の救出は不可能などと平和ボケした我らにはかなりショックな内容である。
近代戦は最初の一撃でおおよその勝負が付く。専守防衛では先に一撃してくれといっているのだから、例えば、弾道弾が到着する1時間以内に反撃の決心をやり、目標を定めて強烈なボディブローを喰らわすことが出来る準備があるよ、本当にあるよ、と仮想敵に判らさねばならぬ。自前の長距離反撃を想定していない我が国では、単独では絶対ダメで、日米同盟にすがりつく以外に手がない。今回の北朝鮮の水爆実験成功による恐怖も、国際包囲網の強化というあまりあてにはできぬ方策も推進するが、最後の頼りはアメリカであるとみな認識しているだろう。元幕僚長はせめて幅広い情報能力を持って、自主的に自分なりの判断とそれに基づく行動が可能になるようにしたいという。第一線におったら当然の声であろう。
畏れ多くも天皇陛下が終戦の詔書をお出しになった、ヒットラー総統が自決した、だから大戦は直ちに終わった。憲法第9条が対象にする軍備はそう言う体制の国のものである。テロで対処せねばならない相手は、憲法では想定されていない「非国家主体」である。テロは野火のようなもので、消せども消せども広がって行く。叩けば叩くほど分裂・増殖すると形容してある。身勝手に過ぎると非難しても、彼らの心底からの怒りの伝搬は留めようがない。テロ団体の平均寿命は8−9年だが、宗教的な団体はその倍の平均寿命があるという。憲法制定の時代には想定する必要もなかった事態に対処するためには、改憲しかない。ただし今までと同じ精神であることが大切だ。社会情勢の大変革はテロだけに留まらない。私は改憲の作業手続きのスピードがすでに時代遅れになっていると感じている。定期的に改憲を国民に問うことを義務づける「改憲」が必要だ。
今テロ紛争のある地域では、国王であれ軍トップであれ宗教指導者であれカリスマ的権力者が不在になったとたんに、部族争い、宗派争いに巻き込まれてている。ロシアや中国では民族の不満から立ち上る煙を圧倒的な警察力と軍事力で押さえつけているが、これは国内であればこその話で、中近東のイスラム圏での燃えさかる野火を、外国の軍事力で消火することはまず不可能であると現代史が教えている。ロシアから始まるアフガニスタンにおける諸外国の一連の行動が追っかけてあるが、部族への忠誠心はあっても国家への所属意識の低い民衆に、米国大統領選挙をにらんだ工程で、国軍とか国家警察を創設してタリバンに対抗させようとするアメリカの方針に、無理を感じない方がおかしい。現在の対IS戦闘において戦っている兵士は、部族の民兵であり宗教指導者の率いる民兵だとしばしば報道されている。

('16/01/08)