ハッブル宇宙望遠鏡
- 10/17放送のNHKの地球ドラマチック「ハッブル宇宙望遠鏡〜宇宙の謎に迫る 25年の軌跡〜」('15年アメリカ)をオンデマンドで見た。私はこのHPに「パロマーの巨人望遠鏡」('02)を書いている。その続版として番組の要点と感想を記録しておく。ハッブル宇宙望遠鏡は、地球の600kmの上空を2700km/hで周回している人工衛星である。口径が2.4mで、長さがバスほどあるという。地上の反射望遠鏡と違って、底部の主鏡と開口部の間に副鏡があり、主鏡から届いた光を副鏡が反射して底部の焦点に送る構造だ。筒長の節約のためである。
- オリオン大星雲は星の誕生過程をつぶさに見せてくれた。水素が核融合を起こし星が誕生している。原子惑星系円盤が見つかった。これは原始太陽系に似て濃いガスの雲が円盤状に中心の輝く恒星を取り囲んでいる。ハッブル宇宙望遠鏡は2000億個の銀河、200垓(ガイ:10の20乗)個の星を観測できる。これは120億光年昔の星を見ることができたことからの計算である。日本大百科全書(ニッポニカ)によると、星との距離つまり何年昔の光を観測しているかという問題には、ケファイド型変光星の観測が有力な解決法だ。星が膨張・収縮して大きさが変化し、その振動周期に応じて星の明るさが変わる脈動変光星の1種である。セファイド型変光星には「変光周期が長いほど絶対等級が明るい」という性質がある。周期から求めた絶対等級と観測した見かけの等級を比較すれば、星までの距離を正確に測定できる。
- タイプ1a超新星爆発は宇宙膨張研究の手がかりになる。Wikipediaによると、この種類の超新星は、白色矮星の質量が均一であるため、ピークの明るさが一定している。この安定性により、Ia型超新星は、視等級の大きさが距離に依存するため、それが含まれる銀河までの距離を測定する標準光源として用いることができるとある。さらに進んで、白色矮星の話までほじくるとなると、ちょっと私の手に負えないほどの高度な物理問題になる。各時代の超新星の速度をドップラー効果を利用して測定することにより、宇宙は膨張を続けており、しかも50億年前から膨張が加速していることが判った。この研究は'11年のノーベル物理学賞になった。だがダークエネルギーと云われる加速のエネルギーは、宇宙のエネルギーの7割を占めると云われながら、科学的根拠のある解明に至っていない。宇宙の始まりビッグバンは、セファイ度型変光星や超新星の観測により137億年前と決定できた。
- ブラックホールが銀河M87で発見された。ガスが渦を為しながら中心部に吸い込まれて行くさまが直に観察された。ブラックホールは理論先行で古くから仮説として唱えられていたが、1970年代に入りX線天文学が発展したことで実証への転機を迎えた(Wikipedia)。それでもハッブル宇宙望遠鏡以前の観察はまだまだろっこい間接的なものだった。太陽系の全質量の20億倍以上の質量がある。20個以上の銀河が観測され、全部の銀河の中心にブラックホールがある。銀河とブラックホールが併存する理由はまだ分かっていない。ブラックホールは、ブラックエネルギーやブタックマターよりは理解がかなり進歩した段階にあるが、まだ物理学的にきっちりした説明が付く段階からはほど遠いようだ。
- ハッブル宇宙望遠鏡は、打ち上げ当初は鮮明な画像が得られず、世紀の大失敗(15億ドル)と揶揄られた。鏡の不具合が原因だった。ひずみ検査用レーザーの位置が1mmほどずれていたのであった。コスターと称する補正用光学機器の取り付け作業を成功させた。補修改良のミッションは5回に及んでいる。最後のミッションでは新型分光器を運び込み、120光年離れた惑星に大気を発見している。スペースシャトルの引退によりもうミッションは開けないらしい。地球引力と飛行抵抗のために徐々に落下しつつあるが、'30年頃には燃え尽きる運命にある。NASAは次世代計画のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を立ち上げている。ハッブルの3倍の大きさがあり、月より遠い軌道に打ち上げるという。
- 今でもハワイのわが国国立天文台の「すばる」の反射望遠鏡は、口径において世界最大(323インチ)のはずだ。建設計画は'91年に始まり観測開始が'99年。ハッブル宇宙望遠鏡は'90年には宇宙に乗っていた。'93年には不具合の修理が完了し、観測が始まっている。このHPの「銀河物理学」('08)の話を読み返すと、この番組がアメリカ製作である点を差し引いても、物理学発展の貢献度は、ハッブル宇宙望遠鏡の方がすばるよりははるかに大きいようだ。
- 悪口で申し訳ないが、カネ(文教予算)もないのに、列国の大望遠鏡が立ち並ぶ中に、さらに大きな大望遠鏡を作って、宇宙の望遠鏡と無駄な競争をしていたような印象だ。なんだか二次大戦における帝国海軍の大艦主義による戦艦大和と同じで、研究戦略を間違えたのではないかと思う。失敗すれば批判される。昔の延長線上に投資をすれば、この火の粉を被る機会は少ない安全な道だ。しかし本当の大成果はオリジナルの冒険にしか来ない。予算を決める人たちに対して、私は再び敗戦軍部への批判、「日本軍人は尉官級まではアメリカ軍以上だが、佐官さらに将官元帥級となるとぐっと劣る」という言葉を噛みしめている。
('15/10/28)