近大マグロU

ニュートン別冊:「近畿大学大解剖〜今求められている「実学教育」のパイオニア〜」、(株)ニュートンプレス、'15/08には、マグロ以外の分野での近大の理系の活動も紹介されている。「近大マグロU」の表題は相応しくないが、あまりにも近大マグロが有名なのでそのままにした。以下UとVに、マグロ以外の内のいくつかをレビューしてみる。
「近大マグロT」のマグロ養殖が第1特集で、がん研究の最前線が第2特集になっている。私は中年の頃からがんに特化した保険に入っている。入ったころはがんは不治に近い病で、外科手術で切除するのが一般的だった。忘れたが結構長い入院生活を伴ったと思う。だから保険とは入院料の保険で、治療保険ではない。現在はいろんながん治療法が開発され、不治ではなくなり、外科切除してもそう長い入院期間を取らなくても済むらしい。結果としてがん特化保険は保険会社の大もうけに終わるようだ。このWebサイトの「科学立国の危機」('05)とか「がん保険のカラクリ」('13)に書いているとおりの情勢だ。私は少々は儲けさせてもいい、それより時代の進歩に感謝だと思っている。その一翼を近大が担う。
抗がん分子標的薬創薬の新しい手法が紹介してある。細胞増殖の命令系統に「MAPキナーゼ経路」がある。分裂酵母は実験材料としては非常に手軽だ。その分裂酵母のMAPキナーゼ経路は3つだが、その1つがヒトの細胞に14種ある経路の1つと非常によく似ていることが判っている。松浦教授は経路阻害遺伝子組み込みに成功し、その応用で阻害物質をスクリーニングする手法を開発した。松浦教授が指揮する「増殖シグナルを標的にした革新的がん治療法開発」プロジェクトが始まった。近大の医学部と薬学部が連携する。文科省の私立大学戦略的研究基板形成支援事業に採択された。松浦教授を検索してみた。ピアニスト志望だったが慶応の文学部さらに法学部を出、一転神戸大学医学部に進み、ゲノム科学講座助教授まで上ってから近大に移っているという才媛である。Career optionsは5万とある。
近大医学部は我が国の肺がん治療のセンター的存在だという。抗がん剤ゲフィチニブ(商品名イレッサ)は、Wikipediaによると1錠が6500円あまりと非常に高価な薬だ。遺族の訴訟により裁判沙汰にもなった問題の薬である。今では分子標的治療薬として、細胞膜に存在するEGFR(上皮成長因子受容体〜細胞の増殖を制御する〜)の遺伝子に突然変異がある人にのみ効果があるとされている。明言できるようになったのはここの研究のおかげだ。この研究以降遺伝子異常の研究が進み、それに対する抗がん薬の開発も進んだ。がんと云ってもいろいろござんすだ。肺がんは'00年頃までは2種類だったが、今では20種近くに分類できるようになった。がん治療に遺伝子診断は必須となり、遺伝子解析のためのシーケンサーの開発も進んでいる。最新のシーケンサーは1人のの遺伝子解析を1日で済ます。
今年のノーベル医学生理学賞の大村智北里大学特別栄誉教授は、土壌菌から抗生物質「エバーメクチン」を抽出し、アフリカの風土病抑制に寄与した。近大の応用生命化学科では南アメリカ先住民が使う生薬から抗がん有効成分を抽出した。臨床実験段階のようだ。
脂質メディエーター受容体を介する細胞内シグナルが、がんの浸潤・転移と深く関わっていることが明らかになった。細胞の内外でのシグナルのやり取りに、血液中にある多様な脂質が関与している。受容体を遺伝子操作でノックダウンさせた細胞で実験が行われる。まだ基礎段階のようだ。
ウナギ養殖のページがある。マグロと同じく完全養殖を目指す。「近大マグロT」にも触れてあるとおり、小笠原海流に乗った親ウナギが、グアム島のあるマリアナ諸島あたりで産卵し、幼生(仔魚)は台湾沖あたりで稚魚のシラスウナギに変態し、黒潮に乗って日本(中国ほかにも)に到着する。幼生の頃に南下するミンダナオ海流に乗ってしまうケースがシラスウナギ不魚の理由に数えられたことがあった。河川や湖沼ではオスは数年メスは10年ほど滞在成長する。2010年に、独立法人水産総合研究センターで、世界初のニホンウナギ完全養殖が達成された。その研究に携わった研究員が近大に転職してきた。本HPの「性転換」('02)に魚の性の不思議を述べている。ニホンウナギも同じで、シラスウナギの養殖環境では9割がオスになると云う。ウナギは飼育環境下では精巣や卵巣が発達しない問題もある。これらがホルモン投与で徐々に解決されつつあるようだ。産業化については触れられていない。
農業関連研究には新品種の研究が多い。マンゴーの新品種「愛好」、皮なしミニ柿「ベビーパーシモン」、フルーツニンジンのための新農法、米収穫量アップのための遺伝子発見などが出ている。皮なしミニ柿は(柿好きなので)興味深い。琉球には豆柿が昔からあるが、市場の果物としての柿は本土から来る(本HP:「那覇」('00))。豆柿は渋柿で普通は渋を取るために収穫される。渋を抜けば糖度20という甘柿になれる。佐渡の平核無と言う豆柿の突然変異種・突核無はより小さな豆柿で、ミニトマトよりやや大きい程度のようだ。ミニトマトなら皮付きで食えるが、豆柿の皮はごつくて食えない。だったら酵素で皮をむいてやりましょうと言うプロジェクトで、市場のサウンディングをやっているという。
本HPの「化石のDNA」('12)に、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人との交雑の可能性を、化石から抽出したDNAから論証する仕事について書いている。この2人種が分かれたのは20万年ほどの昔という。本誌の近大のマンモス復活プロジェクトでのマンモス属は、Wikipediaによると、現生のアジアゾウ属とは600万−500万年前に分かれたとある。アフリカゾウ属とはもっと古い時代に分かれている。遙か昔に分岐した属のゾウを代理母にするマンモス復活などあり得ないのではないかとまず思った。だから興味津々だ。チャンスは新鮮な冷凍マンモス(3−4万年前)の発見と、クローン技術の発展からきた。マンモスの完全な細胞核が見つかれば、遺伝情報を除去した、あるいはさらに進めて、解析したマンモスのDNAでゲノム編集したゾウの卵子と代理母から、マンモスの生きた複製を生ませることができるかも知れない。
NHKの「Dr. Mitsuya(満屋)〜世界初のエイズ治療薬を発見した男〜」は、治療不能に近かった20年昔を思い出させてくれた。今では根治せずともなんとか共生できるレベルまで医学薬学が進んだと思っている。本書の外来レトロウィルスと、すでにヒトDNAジャンク部に組み込まれているレトロウィルスのヒト免疫系の識別に関する研究は、エイズの予防薬創薬に繋がる可能性がある。外来と内在のレトロウィルスの遺伝情報から合成されるタンパク質のアミノ酸の並び方が、免疫細胞によって認識される箇所において、一つか二つ違っているという。これより外来攻撃の酵素タンパク質を作る遺伝子が発見された。
脳細胞は再生が効かないと長年信じられてきたが、最近では再生の可能性が発表されるようになっている。脳損傷が起こると神経幹細胞が外傷部に現れ神経の再生を始める。ところが他の幹細胞と違い1週間もするとみんな死んでしまう。新しい神経幹細胞はほかの脳組織の邪魔になるから、脳が強制酸化により自死させてしまうのだという。カテキンなる緑茶成分の効能は新聞広告などでちょくちょくお目に掛かる。まだラット実験段階のようだが、カテキンを予め飲ませたラットは、1週間後飲まないラットの10倍の神経幹細胞を活動させていた。外傷による障害が減ったという。

('15/10/26)