哺乳類誕生U
- 当Webサイトの「40億年」('95)は、中村運:「生命進化40億年の風景」、化学同人、 '94をタネ本にしている。ダーウィンの進化論を聞いたのは中学生時代だったが、それ以降は関心が途絶えていた。でも「40億年」で再び興味が甦った。そののち見聞した知識をこのWebサイトに載せた(「「退化」の進化学」('07)、「新進化論」('08)、「ダーウィン展」('08)、「地球外生命」('12)、「大人の休日倶楽部パス(東北スペシャル)V」('12)、「進化生物学」('14)など)。新事実が積み重なると、相互の科学的関連が説明できるようになり、新たな奥深い進化物語となって語られて行く。
- 本書に「目の出現と進化」という項がある。視力獲得により動物の弱肉強食の生存競争はより熾烈になり、自然淘汰による進化の速度も上がる。視力獲得は「NHKスペシャル 生命大躍進 第1集「そして“目”が生まれた」」の主題であった。本書には酸素環境克服のための「ミトコンドリア」の原生生命との共生、光エネルギー利用のための「葉緑素」の原生生命との共生の話はあるが、動物の目が植物の感光遺伝子の導入を起源とする話には触れていない。本書の執筆はNHKの取材期と重なるはずだから、感光遺伝子導入はまだ学会の定評を受けるには至っていないと云うことだろうか。
- ローマクラブの「成長の限界」以来、我ら凡庸一般にまで石油はもうすぐ枯渇すると信じられるようになった。私が企業の本社機構にいた頃、新入社員に石油の未来を心配するヒトがいた。その質問に、私は石油無機起源説が有力になりつつある話をしたことを覚えている。隕石分析で有機物が発見されるようになって、一時かなり無機起源説が有力になった時期であった。今は有機起源説がほぼ定説化している。本書はそれを生命大量絶滅と結びつけて説明してある点が私には目新しい。大量の死骸が海底に沈む。海底はもともと低温低酸素なのに、ちょっとでも腐敗が起こると環境は無酸素になり、腐敗が完全に停まる。地殻変動で高温高圧に晒されると石油が生まれる。過去に大絶滅が5回、中絶滅が4回。大絶滅最後が巨大隕石による白亜紀で、恐竜が死に絶える。一番新しい死骸でも6500万年以上経っておる。石油にもなろうじゃないか。
- では石炭は。石炭紀の末期の地層には石灰岩が多く含まれ大量絶滅があったことを物語る。本書には次のジュラ紀の大量絶滅は書いてあるが、石炭紀の絶滅は書いてない。まあ中絶滅のことだと好意的に解釈しておこう。あるいは末期の地層とはジュラ紀の地層を指すのだろう。石炭化した植物のほとんどは木本化したシダ類の先祖である。上陸を果たした植物はコケ類、シダ類だったが、シダ類は木本化することにより、つまり背高になって、大陽光を優先的に利用できるようになり、大繁茂の道を開いた。シダ類は水を介して受粉、胞子を作り子孫を残す。この制約は水環境の厳しい内陸部の深い位置への進出には不利だ。同じことは発生から変態までを水環境に頼る両棲類についても云える。同じ頃幹を持つことが出来るようになった裸子植物は、花粉と種子で水依存の問題を解決し、さらに内陸へと生存域を広める。動物では爬虫類が対応する。この論法では、石炭層はその時代の海岸ことに河口付近で大量に堆積しているはずだ。本当はどうなのだろう。油田と炭田が近接していてもおかしくないはずだが、あまりその例を聞いたことがない。
- 自然淘汰には弱肉強食に棲み分けの原理が働く。「平和主義者」は闘争を避けて競争相手の少ない例えば深海や大洋と云った僻地に避難し、そこの環境に順応して安寧に暮らす。深海生物にはさっぱり進歩せずに、生きた化石というニックネームを頂く種も出てくる。今では海の生態系の頂点にいるマグロ、サバ、カツオの祖先は実は深海に一度は隠棲し進化を見せなかった種だが、大量絶滅で淺海の生態系が全滅し、再度浮上して進化競争に明け暮れるようになった種類だとは初めて知った。巨大隕石の衝突で海生爬虫類は全滅し、海の生態系に空白ができた。カバの祖先が海に向かって進化し、ついに生殖から育児まで完全に陸と縁切りした。それがクジラ類である。
- 水族館のためのイルカ捕獲法が気に入らぬと「日本動物園水族館協会」が、「世界動物園水族館協会」(WAZA、本部・スイス)から会員資格を停止された。我らの捕鯨へのパッシングもある。ことクジラ類に関しては日本の行動は四面楚歌である。クジラはウシと同じ偶蹄目。ヒトとの近さは遺伝子的に両者に差はない。クジラが目に見えぬ海にいるだけ、ヒトからはウシより縁遠いだろう。そのウシを合計すれば毎日何十万頭と殺して肉を食う、文化背景の異なる民が、クジラだけはヒトに準じて扱えと云う。あきれ果てた論法だ。
- 内蔵にも進化があると知ったのは中学の生物班で蛙の解剖をやった頃からだ。当Webサイトに「感覚器の進化」、「−−−U」('11)、「内臓の進化」、「−−−U」('14)がある。カエルは2心室1心房で、ヘビになるとその心房内に不完全ながら隔壁ができ、ヒトでは2心室2心房になる。生物班では先輩に恵まれた。私の成長にいい模範であり続けてくれた。だが学制変革で中学も小学同様の学区制になると、メンバーの大半は他校に去った。替わって入ってきたメンバーには疑惑のヒトがかなりいた。元の学校に残した「自分のもの」を下級生に取りにやらしたり、足の悪い元からの先輩にチンバという侮蔑語を使ったり。旧中学にあった徳育環境が次第に失われていった。京都は新制高校も学区制だった。「悪貨は良貨を駆逐する」、「水は低きに流れ、人は易きに流れる」で、それまでの公立の優位が消え、エリート進学には私立が選択されるようになった。エリートの心得を強調する伝統が目障りであった理由を、当時の政治家どもに聞いてみたいと今も思っている。京都は当時から共産党系が強かった。
- TVの自然科学番組であったか、恐竜には恒温動物的特徴を持つものがいたと知った。本書によると、白亜紀後期のオビラプトルは鶏冠(トサカ)で放熱し、羽毛で身体を覆われていた。出土化石の状態から抱卵していると判断され、恒温動物的恐竜とされた。2足歩行だ。鳥がその系列にあると納得できる。鳥類と哺乳類が分かれた時代が意外と古いことが側頭骨の穴の数からわかる。恒温性の獲得は生存範囲の拡大に有利で、自然環境への適応が行き着くところ同じ恒温動物かであったことは面白い。鳥類が最初の恒温動物、次いで哺乳類とあるが、可能性はあるもののそれは納得しにくい。それでは哺乳類は原始時代には変温動物だったことになる。哺乳類はネズミのような小さな動物から始まっている。大きかったら体温の変化が少なくなろうが、哺乳で次世代に命を繋ぐ小動物が、発生孵化では自然の気候任せになっているとは、ちょっとかたちんばで、考えにくいではないか。
- Wikipediaの恒温動物に関する記事('15/5/27)は示唆的である。本書に現れる「哺乳類+鳥類+爬虫類」のキメラ動物カモノハシについて、「活動時体温は外水(気)温よりも5−10℃以上高く、40℃に達することもあるが、外温や運動の有無で体温が浮動し安定しない。つまり“温血”の“変温動物”である。」と書いている。現実には完璧な恒温動物も完璧な変温動物も世界に存在せず、その中間状態にある動物が適時見つかるのだ。カモノハシは卵を産み、腹部で抱卵し、原始的な乳で育てる。恒温動物となったのは鳥類が先か、哺乳類が先かという議論は意味がなさそうだ。
- 鳥類が空を飛べるようになるための進化は、かって読んだ零戦開発記を思い出させて愉快であった。零戦は飛行性能を向上させようと重量低減に血の滲む努力を繰り返した。構造材料は穴で肉を削ったジュラルミン板だったという。トリの骨はよく知られているように中空だ。肺には気嚢を備えて飛行方向とは逆方向にワンウェイで空気を通す。「内蔵の進化」('14)にも書いているように、この方が酸素吸収率が高いし、容積効率もいいだろう。フイゴのような動作は要らぬから、保護骨格も基本的には無用になる。繁殖も卵生を選ぶことにより、胎生の重量増を避けることができた。卵巣と精巣が重くなるのは繁殖期だけという徹底ぶりだ。なおニワトリには卵管に精子に栄養補給する機能があって、精子は2週間は生き延びる。卵を毎日5日間生んでいても交尾ははじめの1回で済むと云うから、効率的生殖法だ。爬虫類ではもっと長く精子が寿命を保つと云うから、トリとの近縁性の1つの証拠である。
- 同じ偶蹄目でもウシはウマより繁栄している。ウシもウマも草食だが、ウシは第一胃が発酵タンクになっていて、草のセルローズを共生の微生物のセルラーゼで分解して貰う。そのときの微生物の排泄物が低級脂肪酸で、それを吸収、糖や脂肪に変える。草のタンパク質は微生物の栄養として食われてしまうが、微生物は第4胃に来るとそこで分泌されるウシの消化酵素で分解され、結局は小腸でアミノ酸として吸収される。この量が元の草のタンパク質の10-100倍になるという。ウマには「発酵タンク」はなく草のタンパク質だけで生きねばならない。ウマは生きるために広い地域を食い歩かねばならぬ。だから彼らは生まれ落ちた時から健脚である。
- 進化とは子育て方法の発展の歴史だとある。魚は生涯に何10万個何100万個の卵を産んでも、1匹の雌が伝える次世代の雌は平均して1匹だ。進化の頂点にいるヒトは、吾が子をほとんど確実に大人の年代にまで育てられるようになった。合計特殊出生率が人口の増減がないための条件、2.08を切って今は1.4ぐらいだったか。日本の人口減少傾向が停まらぬのは、進化の生物学的問題ではない。生命40(近頃は46)億年の旅の大目的「命をつなぐ」と、個人のエゴ〜幸福〜のバランスをどう考えるかの問題だ。
('15/5/28)