進化生物学V

佐倉城址公園に夫婦モッコクがある。モッコクにしては巨木で、天然記念物だそうだ。2本が根本で癒合していて1本に見える。生命の系統樹はどうなのか。動物系統樹は単系統でつまり1本だと遺伝子配列と細胞形態学から証明されているという。WikipediaでHOX遺伝子を見ると、ハエのホメオティックタンパク質をニワトリのそれと入れ替えても、ハエは完全に機能するという事実があるぐらいだそうだ。広大な遺伝距離に渡って非常に保守的(異なる種の間で変化が少ない)である。また細胞レベルでは形態的に共通の特徴(共有派生形質)が維持されているという。でも我々と、植物まがいの海綿が共通祖先を持つなんて云われても信じがたい。
海綿には明快な組織は存在しない。食物の捕捉は体表面いっぱいに存在する襟細胞が行う、つまりその点は分化している。その襟細胞は単細胞の原生生物・襟鞭毛虫そっくりだ。ここら辺からの多細胞化が動物を生んだのだろう。植物の系統樹は書いてない。が、想像を逞しくすれば、地球の生命はすべて共通祖先に繋がる海綿から二?葉動物が種分化を起こす。そのもっとも単純な平板動物は4種類の細胞しかないそうだ。クラゲになるとさすがに動物という印象になる。近年になって深海クラゲの知識が我々一般にも豊富になってきた。深海潜水艇とTVのおかげである。その中にはファッションモデルがかざす日傘のように、イルミネーションで飾った骨が美しく透けて見えるような、おおよそ我らの常識にあるクラゲにはない種類のものが出てくる。どうやらあれはクシクラゲ(類)というクラゲよりは一つ古い世代からの動物らしい。昨年は夏から秋にかけて、日本海沿岸であれだけ大騒ぎになった東シナ海発の、エチゼンクラゲなどの大型クラゲは、今年はさっぱり出てこないようだ。このクラゲは正真正銘のクラゲ(鉢虫類)だ。
クラゲ類は散在神経系で中枢神経系ではない、つまり脳なしだ。それでもその身体一面に張り巡らせたネットワークで統一的な運動を行うらしい。だが前口動物(我らは後口動物)になると脳が口の近くに発生する。いよいよ中央制御が始まる。体節を作る環形動物(ミミズにヒル、それにチュ−ブワームも)は神経節を体節ごとに用意し、神経作で繋ぎあって連携する。運動も活発になる。前口後口とは、受精卵が細胞分裂を開始して凹み孔が生じたとき、将来その凹みが口になるのが前口、肛門になるのが後口だ。口から肛門まで消化器系が繋がるのが普通だが、ときおりその分化をgive upする動物種も多いらしい。条虫類とか吸虫類とか寄生虫となって宿主を困らせるヤツは扁形動物に属する。宿主の消化栄養を頂くから、自分の消化器は退化させて持っていないという憎らしさである。
貝塚は、旧石器時代から弥生時代まであたりの日本人が摂取していた、動物性タンパク質の大半が、二枚貝類からであることを示す。それ以降の新しい時代でもこの状態が長く続くのであろう。たいてい今より大型の貝殻が多い。海辺の貝種が変わったのではなく、人口の割に貝が豊富だったからだろう、貝は十分に成長した。伊勢神宮の祭祀に欠かせないのが、英虞湾の海女が獲るアワビ(腹足類)の干物だとTVで知った。千数百年の昔からアワビは貴重なご馳走であった。どちらも軟体動物に分類される。千葉県立博物館にはオウムガイの祖先の化石が並んでいる。一見カタツムリの親類に見えるが、タコやイカの頭足類に属する。イカには貝殻の名残としての内殻があるそうだ。タコは内殻も失った。ナメクジはカタツムリの親類であるのにもかかわらず、貝殻はとっくに失っている。殻は進化学上の目印となるボディプランではない。
脱皮中の節足動物の化石が、5億年前のカンブリア紀の地層から出てきたそうだ。HOX遺伝子は共通祖先の存在を示すから、脱皮動物は古参の単系統だ。種の多さは最大だ。ことに節足動物は群を抜く(線虫類に次ぐ)。キチン質の堅いクチクラで身体を覆っている場合が多いから、化石も豊富になる。今、九州物産展が百貨店で開かれている。コハクの中にいろんな昆虫が閉じ込められているのがわかる。本書にコオロギからハリガネムシ(脱皮動物の1種の類線形動物)の幼生が湧き出ている写真が載っている。ファーブルの昆虫記で類似の観察がハチの幼生についてなされているが、その智恵が昆虫以外の脱皮動物にも存在するとは知らなかった。コオロギは痲酔状態にあり、幼生のために夢遊病患者のように水中に足を運び、最後は水死するという残酷な解説が付いている。生きるとは本当に大変な作業である。
上陸はムカデやヤスデ(多足類)に先を越された(4億年前)が、有翅昆虫は、世の中に初めて獲得した飛翔能力により爆発的に勢力を拡大した。祖先は無翅であった。有翅の始まりはカゲロウとかトンボだ。昆虫は変態のたびごとに生活姿勢を変える。完全変態の昆虫ではことにその変化が著しい。一般的には幼生は摂食と成長に行動が特化しており、成体は生殖と行動範囲拡大を目的とする。カゲロウの成体は極端で、全く陽炎そのもので、1日の命だ。体内に消化器など持たない。トンボには、ムカシトンボという生きている化石が、九州から北海道まで広く分布している。ヒマラヤを除いたら日本だけに生息するそうだ。生きているとは瀬戸内海のカブトガニのように、そっくりそのままの化石がでると云うことか。他の昆虫と異なり、カゲロウとトンボは翅を折りたたんで収納することができない。祖先型である所以の一つだろう。エビとバッタの体節のボディプランが比較してある。細かく見るとなるほど同じ節足動物だ。昆虫の中の多数派は甲虫だそうだ。
脊椎のない動物の中で一番ヒトに近いのは、ウニやヒトデだと聞いたら誰しも驚く。発生の時三胚葉の後口であり、ゲノムの系統樹解析もそれを支持する。ウニは海藻食だそうだ。ヒトデは肉食で、二枚貝を取り押さえ、管足の吸盤でこじ開けようとしている写真が出ている。貝が疲れて蓋に隙間を作ると、胃を口(中心部)から反転させて中へ侵入させ、消化酵素を注いで食ってしまうと云う。サンゴがオニヒトデに食われて南海の景観を損なっているニュースはときおり聞く。同じような食い方をするのだろう。ヒトデでも口からの排水は水管系として消化器系から独立し、ガス交換も担う。次の進化動物・半索動物(海のミミズ)では呼吸系はより脊椎動物に似た姿になる。喉頭に続く喉頭裂には血管が密集している。
脊椎動物の入り口にいるのが、円口類とか無顎類というヌタウナギやヤツメウナギである。前者は幼生段階でかろうじて脊椎動物の証拠を示す。共に軟骨性骨格だ。ヤツメウナギは本Webサイトではお馴染みの動物だ。主に免疫に関してその原始状態を暴露されている(「ゲノムが語る生命像」('13)、「リンパの科学」('13)、「腸のふしぎ」('13)、「内臓の進化」('14)など)。ヌタウナギは元本には出ているが、あまり知識のない相手なのでたいていは省略していた。それでも「腎臓のはなし」('13)には出ている。食卓に上るウナギは顎口類で、無顎のヌタやヤツメよりヒトに近縁である。ヌタにもヤツメにも蒲焼きにする料理があるらしい。こちらは絶滅危惧種とは書いてないから、料理の達人にでもお願いして、蒲焼き素材の転換を計ってはいかが。
上陸脊椎動物の祖先を肉鰭魚類という。お魚に主骨格と関節で結ぶ2対の鰭を持ち、酸素不足を補う浮き袋(嚢)を持つようになる。アマゾン河紀行で紹介される肺魚はその典型だ。乾季でも泥の中で5ヶ月も生き長らえるそうだ。シーラカンスと共に我ら四肢類の太古の状態を伝えている。4億年前のデボン紀には出現している。両生類がついに上陸を果たす。ほとんどのカエルはしかし水との縁が切れない。羊膜類は卵の胚を羊膜で包むことで、水分の移動を防げるようになった。卵殻は内部の水を通さずに、しかも酸素呼吸と炭酸ガス放出ができる選択性の高い構造をしている。これで乾燥地帯にも進出できるようになる。石炭紀の2.5億年前には、羊膜類から爬虫類と哺乳類が分かれる。カエルは少年期の解剖材料だった。心臓の3室構造は覚えている。ヘビの解剖はやらなかった。でも、爬虫類は、不完全ながら、心室中隔により動脈血と静脈血の混合をを防ぐ構造に進化したと教わった。爬虫類でも主竜類(ワニ以上)は、我らと同じように、4室が混合に対し完全隔離になっている。これは収斂進化だ。
恐竜類には翼竜類があって、コウモリのような膜を広げて飛行する翼竜の想像図にお目に掛かることがある。だが系統樹の類分岐数から数えると、翼竜類はワニ類に近い。ワニ類も翼竜類も主竜類に含まれるが恐竜類ではない。ここら辺の説明はないので私には分類法がよく分からない。鳥類は翼竜類からではなく恐竜類の中の獣脚類に属する。古顎類と新顎類に分かれる。前者ではダチョウとかキウイが有名で、飛行能力をほとんどあるいは完全に失った。沖縄のヤンバルクイナはほとんど飛翔しないので有名だ。北アルプスのライチョウは氷河期の生き残りとして有名で、飛ぶには飛ぶがそんなに飛翔は得意ではない。日本にもダチョウの親類がいるのかと思ったが、調べてみるとどちらも新顎類であった。我らの肺はバッチ式に空気を同じ気管を使って吸ったり吐いたりする。ところが彼らの肺は空気が1方向に流れる半連続式だ。ガス交換機構としては我らの先を行っている。
哺乳類は短期間の間に爆発的に進化したため、その大半を占める真獣類の各グループの相互関係の解析は困難だとある。本Webサイトの「「しばれ」たか」('98)や「飛鳥クルーズ」('00)、「千島〜カムチャッカ」('06)などに海で見た海獣に少し触れている。その中でじっくり眺められた自然の海獣はゴマフアザラシだけだ。流氷が来るころに網走からクルージング船に乗り、氷の上に座っているアザラシを観察した。飼育海獣は水族館でたくさん見た。芸達者な海獣には鴨川シーワールドでお目に掛かった。長い間私は海獣族は纏めてクジラの親類ぐらいに思っていた。クジラはウマ、ウシ、ヒツジの偶蹄類に近く、カバと近縁、イルカは同類という。まとめて鯨偶蹄類としてある。アザラシ、アシカ、オットセイ、セイウチは肉食(ネコ)類で、トド、オタリアと共にイヌ亜目に入る。マナティー、ジュゴンは海牛類だ。
さて霊長類真猿類ヒト上科(テナガザル以上)のヒト属(Homo)。「イヴの七人の娘たち」('02)の推論にもかかわらず、本書ではネアンデルタール人とホモ・サピエンスは交配したとしている。インドネシアで発掘された小型人類フローレス人は、一時は科学の独占的話題であった。本書では、160万年前に出現し、人類としては初めてアフリカの外に進出したHomo erectusの直系と考えられている。その次にアフリカを出たのがネアンデルタール人だが、彼らが2.8万年前に絶滅したのに対し、フローレス人は1.7万年前まで生きていた。
以上は、サダヴァ他:「アメリカ版 大学生物学の教科書 第4巻 進化生物学」、石崎泰樹他監訳、講談社Blue Backs、'14の、第22章「動物の進化と多様性」に対する私なりの読後感である。

('14/9/17)