福島原発の廃炉
- 東電福島第1原子力発電所1、2、3号炉の廃棄処分は、考えるだけでも気が重くなる問題である。'11年の東日本大震災で、4つの原子炉の内3つまでがメルトダウンした。廃炉には2つの先例がある。1つはアメリカのスリーマイル島原発、もう1つはウクライナのチェルノブイリ原発だ。前者は、事故後すでに35年は経っている。1炉100トンの鉱石状になった溶融固化燃料(燃料デブリ)を砂漠の一時保管所に隔離している。永久保管策は地元民の反対があって進まない。後者は100年間は手を付けず、放射能の低下を待つ、その間廃炉の研究を進める方針と云う。消滅した村落は半永久的に廃村状態のままになる。福島はアメリカ型の廃炉を40年掛けて行う。おそらくその倍はかかるのであろう。
- NHKは類のないこの長期間プロジェクトを、代を越えて追いかけるという。NHKにしかできない壮大な仕事だ。その「シリーズ 廃炉への道」の第1回「放射能"封じ込め" 果てしなき闘い」と第2回「誰が作業を担うのか」が放送された。
- まず触れておきたいことは、なぜ燃料デブリを掘り出して、更地を作るような廃炉をやるのかという素朴な疑問にである。スリーマイル島原発のメルトダウンは福島に比べれば軽かった。格納容器にまで溶融燃料が落下していなかった。当時燃料デブリ取り出しを指揮した技師は、はるかに深い位置に墜ちている、それは周辺材料を巻き添えにしている、全量270トンと云うことだが、福島の燃料デブリの砕塊取り出しが非常な困難を伴うものだと証言した。
- なぜチェルノブイリのように、石棺に保管してそこには寄り付かないようにしないのか。おいおい判ってきた原子炉の損傷状態は、放射線リークの最後の防壁のはずであった格納容器(映し出されたのは、本体を取り囲む圧力制御室だったようだ。)からも、水がじゃじゃ漏れであると云うことだ。この水は直接に燃料デブリと接触した水だから、高い放射能を持つ。排水はALPSなる(吸着?)浄化装置で放射能を除去するが、再々のトラブルで、社員の半分を張り付けねばならず、廃炉計画に支障を来しているという。いまや排水タンクは1000基に達し、敷地は飽和状態に近づいている。
- だから格納容器の修理だけは、なんとしてもやり遂げねばならない。そのためにも燃料デブリの搬出が必要なのだろうか。TVはドーナツ状の圧力制御室と格納容器本体を結ぶ大型配管に、風船を詰め込み、隙間を水中固化セメントで塞ぎ、両者を遮断する実験が成功していることを報じた。メルトダウンした燃料が墜ちたのは、本体の底である。その部分の説明はなかったから、あるいはその部分の漏れはないのかも知れない。地下水が原子炉の下を通って海に達する。汚染水が海を汚す。その防止に、原子炉手前で地下水をくみ上げて、地下水位を思い切って下げる。その方向について、漁民の了承が得られたことが出ていた。しかし地下水位が下がると地盤降下がある。もろくなった原子炉に更なる破損をもたらさないか。原子炉建屋内は、爆発による機材の散乱で、ロボットが通ることすら困難である。
- 私は、中尊寺金色堂覆堂方式がいいと思う。この覆堂はなんと13世紀には作られている。アンタッチャブルで、部分分割ではどうしようもない場合の日本人の智恵である。原子炉建物を大型水タンクで覆う。計算が立たない建屋内部に比べれば、外部での工事ははるかに安くて容易で短期間に、on scheduleで完成できるはずだ。憂鬱な問題を「on schedule」で進めることは、国民が活力を取り戻すために是非必要な要素である。チェルノブイリはこの方式を選択したと云ってよいだろう、四川省での大震災でも、中国政府が町の復旧を諦めて、全く別個の町を作った例がある。東日本大震災の復旧では、高所移転程度はあるが基本的には元通りで、代わりに海の見えない高い防潮堤のある海岸通り、しかも若者は帰ってこないと云った結果になっていることが多い。悪口で恐縮だが、もはや日本のGDPに何の寄与もない年寄りの懐古と郷愁で、これからの世代を惹きつけることは出来ないのだ。廃炉も同じく「元通り」は愚かな発想である。蓋が開いたら、計画でも2兆円40年、実質はきっとその何倍ものスリーマイル島原発方式に決まっていた。不思議である。
- 東芝、日立、三菱重工、パナソニックなどのロボットが活躍している。さすがに日本を代表する会社の装置だ。開発中のもある。ロボットだってこんなに高放射能の環境では直ぐ痛んでしまうだろう。頭脳の半導体など一番弱い場所だ。電線の被覆材をはじめとする有機材料は直接被爆下ではまず使用不能だろう。遠隔操作でもたもた進む。でも調査段階すらまともに進まない。燃料デブリ取り出しには原子炉上にオペレーション・フロアを設けねばならぬが、まず瓦礫が散乱し、フェンスで阻まれた位置に調査ロボットを入れねばならぬ。その道路造りロボットが目的半ばでひっくり返っている。調査ロボットが持ち帰ったコンクリートの分析で、表面を1mm削る必要が出て、そのためのロボットを開発中だとか。技術者は着実に道を歩いているが、果たしてそれが廃炉への王道なのか。
- 最近の国交省発表のデータでは、建設労働者需給は3月時点で2.8%の不足、技能労働者の不足が目立つという。東北地方では労賃値上がりのために、公共事業への応募がないとはよく聞く話である。廃炉の「作業員の確保」も深刻だ。必要労働力は当初計画では昨年は9千名までだったが、修正時点で11千名となり、実際は13.5千人近くを使っている。今後もそう減少しそうもない。今は廃炉準備段階で、高放射能下の現場ではロボットなどによる落下物除去作業が中心だ。それでも被爆は避けられず、許容値に近づいた労務者は職場を離れねばならない。専門性と熟練性の必要な現場なのに、その伝承が十分に行えない。スリーマイル原発の廃炉担当者が、計画性のある教育システムを強調したのは印象的であった。彼らは年平均1000名程度で、10年ほどだった。人数と年月だけからも福島事故の重大性がわかる。モックアップ施設を作って、長期視点の労働者教育機関を国家が作る必要を感じた。
- 労務者新規募集に応募する労働者は減少の一途だ。事故までは放射線業務への応募者は年々増加していたが、事故以来かっての1/3ほどになった。全国放射線業務従事者数は、今の7.8万名からどんどん減って、廃炉終了のころには2.1万名に激減する見通しという。ことに若手が集まらないという。さらに除染が国の直営なのに対し、廃炉は東電の管轄である点が追い打ちを掛けている。東電の下に元請け、一次下請け、二次、三次と繋がっている。
- 東電は確かに労務者優遇に力を入れて員数確保に動いてはいる。従来の1万円/人/日を倍額の2万円に増額した。だが東電のピラミッド体制(重層下請け構造)では、1万円増額しても直接の労務者には半分以下の数百円〜4千円ほどしか渡っていない。国家指導型の、半世紀以上の将来を見通した計画性のある労働者供給体制を作る必要がある。ウクライナでは工賃は通常の1.5倍と優遇され、50歳まで働くと国の年金制度の恩恵を受けられる。労務者の健康診断は徹底して組織的に行われる。廃炉労働者専用のアパートが建設されて、無償貸与だという。恒久的に労働者が取り組める体制が出来ている。労務者がインタビューで国に貢献する誇りを語った。
('14/4/30)