オスプレイ
- 青木謙知:「徹底検証! V-22オスプレイ ティルトローター方式の技術解説から性能、輸送能力、気になる安全性まで」、サイエンス・アイ新書、'12を読む。著者は航空機関係のジャーナリストとしてお馴染みの人で、本HPにも「第5世代戦闘機F-35」「ボーイング787」に彼の著作に対する読後感が入れてある。オスプレイは前者「第5世代戦闘機F-35」にも少し出ている。日中緊張の中での沖縄配置を巡り注目の的となっている。私に云わせれば、沖縄の尖閣諸島に中国が上陸してこないのは、日米安保に尖閣が含まれるとアメリカが明言したおかげである。そのアメリカが一段と強力な兵器を装備するのに、沖縄県民はなぜ反対なのか理解に苦しむ。本書はその「強力さ」を解説する教養書なのであろう。
- このHPに「戦闘ヘリ:アパッチ」という記事がある。ヘリはヘリで驚異的に戦闘能力を増したが、ヘリと固定翼機の差は開いたままだ。同じ荷重に対し倍近い高馬力のエンジンが必要だ。それが航続距離に響く。最高飛行速度も固定翼機より低い。空気力学上の原理は同じだが、前進と浮揚の両方を同じ翼でやるから、発生する渦は複雑で、その分両方の効率を下げている。似たような外見のオートジャイロはプロペラの気流を受けて回転翼を回す構造で、ヘリよりも制御しやすいだろうから、こちらの方が先に注目されたと記憶する。今はお遊びに用いられている程度らしい。
- ヘリと固定翼機の双方の利点を取り入れる努力は'30年代には始まっていた。垂直離陸、ホバーリングが出来て、水平飛行は固定翼の浮力で飛ぶ。転換型飛行機と云うそうだ。最初の実験機は'54年に初飛行したという。主にアメリカで、国軍の援助で開発が進められた。各社から入れ替わり立ち替わり新しい発想の実用化が進められた。軍装に採用された機種もあるが、名機と云えるほどのものはなく、ちょこちょこ事故を起こしている。上昇と前進を同じ翼に依存する作業は、現在のような電子頭脳が無かった時代では、技術的に虻蜂取らずになりやすかったのではなかろうか。これは昨今の自動車搭載頭脳の驚異的発達を見ても頷ける話だと思う。
- 神でなければ絶対安全など不可能だ。原発には安全神話が創り出され、愚かにもそれを信じた(ふりをした)福島原発周辺の地方民はたいそうな被害を被った。本書にもあるが、事故ゼロなどどんな機器にもあり得ない。理工系の人には常識中の常識だ。ゼニは欲しいが住民の反対は怖いで、政治家が掲げたまやかしの説得話法が安全神話である。文系優遇社会の一大欠陥があの事故で暴露したと思っている。オスプレイの事故率は高くもなければ低くもない。国家を成り立たせるためには、国民はおのおの何らかの危険を負担せねばならない。オスプレイ配備に反対するのはエゴに近いのではないか。
- 固定翼機でもヘリでも事故はほとんどの場合離着陸時に起こる。エンジン全基が同時に停止したときが最も危ない。オスプレイは前進中であれば固定翼機のように滑空着陸できる。回転羽根はトランスミッションから切り離され、自由回転の風車状態になって着陸する。ヘリだったらホバリング状態の時でも操縦士の腕次第でこの機能を操って緊急着陸することができる。ヘリのオートローテーション能力という。でもオスプレイではそれは無理らしい。虻(固定翼)も蜂(回転翼)も中途半途だからだ。事故の原因の一つに回転翼のボルテックス・リング状態(VRS)についての説明がある。降下時翼先端の空気渦が回り込んで翼を押し下げようと働くことだ。開発過程で現れた実験機の中に回転翼に整流円筒を被せたようなものがあったが、VRS対策であったのだろう。戦闘機でも開発期間は3−4年だのに、オスプレイは11年を要している。低速時の不安定空気流に対する安全策が問題であったのだろう。
- 実用化後の事故の中に、2機編隊飛行の時、先導機の作る乱流に後続機が入り込み、安定を失ったことが原因となったものがあった。ヘリコプターモードから固定翼モードに変更の途中であったらしい。機体は大型化し、航続距離は増えた。しかもヘリと固定翼の両モード。VRSの説明でも出ているが、3次元の空気のより大型になった複雑な流れは、今までのヘリと同じ感覚で操縦するととんでもない危険を呼ぶのだろう。
- オスプレイは輸送機だ。沖縄から尖閣諸島までの往復距離は400海里弱だ。嘉手納基地を短距離離着陸、中間を固定翼機モード、尖閣諸島では垂直離着陸だろうから、最大限の5.3Tの燃料で運用すると7500lb=3.4Tの荷物を運べる。この計算では予備に20分の飛行が可能としてある。また空中給油とか追加燃料タンクを備え付けることも可能である。積荷に必要な時間を除けば、ウオームアップからホバリングで積み荷を降ろすまで1時間以内と思われる。ヘリで運ぶには輸送艦を危険海域にまで進めなければ不可能な数字である。いかに緊急対応に優れているかは素人にも明白である。これではうかつに島の占領など出来ようもない。自衛隊だけで守るのが沖縄の希望かも知れないが、占領されてから、えっちらおっちら艦船を派遣して近づくのでは、とても近代戦に間に合わない。オスプレイ反対だが尖閣放棄が嫌なら、日本の義務兵役を含む本格的再軍備まで考えねばならぬ。
('12/12/14)