都会の雑草
- 稲垣栄洋:「都会の雑草、発見と楽しみ方」、朝日新書、'12を読む。題名から直ぐシナガワハギを思い出した。時期的にはそろそろ花が終わるころだ。シロバナとキバナがある。名に地名が付いている。だから最初は品川で発見されたのであろうが、多分もうそこでは滅多にお目にかかれないだろう。私の海岸よりの散歩コースにかってはこの雑草の大きな集落があった。だが開発が進むにつれて追い出されて、次に発見した場所はビルの谷間の空地であった。でもそこも駐車場になりアスファルト舗装で全滅した。今は街路樹の根元の囲いとかフェンス下のわずかな土を頼りに、1−2株づつ枝を伸ばしている。数は漸減傾向にあるので、その内に全く見られなくなるだろう。滅び行くものは哀れである。
- 幕張の市中に高圧送電線が走っている。鉄塔の周辺ではカラスムギが繁茂するのだが、ときおり雑草が刈り取られて地肌が出ている。だが来春になると何事もなかったように集落が回復する。ここ何年間か見続けてきた風景だ。1株のカラスムギ地下茎の全長は、驚くなかれ、550kmに及ぶと根気よく調べた人がいるそうだ。イネ科の雑草の集落には凄さがある。このHPの「身近な雑草」に、加曽利貝塚を見学に行って、一帯にホソムギの大群落を見た記録がある。遺跡指定され整備されてから長い。だがササやタケの花は60年120年周期でしか咲かない。遺伝子解析したら面白そうだ。幕張も加曽利もクローンで占領されているのかも知れない。
- 雑草の定義がしてある。人に役立つか否か。私には「花屋に売っているかどうか」が判断基準だ。人の住む至るところに花が育てられている。近所の花は園芸種ばかりだ。たいていの園芸種は人工の愛玩犬と同じで、ひ弱くて世話をしないと直ぐ滅びてしまう。だが自然から引っこ抜いてきたような鑑賞用植物は、「飼い主」が飽きても無遠慮に強い生活力を発揮する。私の回りにシロユリ(タカサゴユリだろう、台湾原産)が咲く。公園と造成中の盛り土区域の中間の、片やキョウチクトウの生け垣、片や造成地の針金フェンスの人の通らない細道の両脇に数多く咲いている。どうしてこんな空間を見つけたのかと思うほどだ。国道脇にも1本2本と咲いている。花を付けるまでの茎は、ぼんやり見ていると、イズハハコとかムカシヨモギとかマツヨイグサの仲間とあまり区別が付かないが、ある日通ると真っ白な花を一斉に咲かせている。どう触ろうと怒られる心配がないから、私にとってこれは雑草だ。でも花屋にも出ている。
- 私の近所にもオオバコが生えている。でも江戸時代にヨーロッパから運ばれてきたヘラオオバコの方が多い。オオバコを漢字で車前と書く。踏まれなければ生きて行けない面白い草だ。踏まれると実から粘着液が出てきて例えば靴裏にくっつく。そうとは知らぬ靴の持ち主はオオバコのタネをどこまでも運ぶ。落下傘をつけていて、風にタネを運ばせるタンポポの戦略と一脈通じるところがある。タンポポはオオバコ同様に背が低く、並の競争では雑草同士であっても競争に勝てない。だから草が生えにくい道端へ出てくる。市内は競争相手が少なく、それにセイヨウタンポポは年中花を付け、しかもクローン種で広がるからと云う。ロゼットとあまり変わらぬ姿の葉で勝負するところもオオバコに似ている。ロゼットは万物が息絶えるような寒い冬でも光同化作用を続けて、デンプンを根っこに送る。春が来たらそのデンプンで他の背の高い雑草がまだ育たぬ間に成育し花を付ける。
- 私は佐倉の川村美術館にカタクリ草の花を見に行ったことがある(本HP「カタクリ草」)。あのカタクリも同じ戦略を使っている。先手必勝で健気に咲く様は、なにか背の低い日本女子バレー選手の健気さに通じるものがある。過去彼女たちが生み出した新戦術は次々に真似られ威力を失った。今回五輪のそれは団結力だった。いずれ各国チームが真似るだろう。次に出てくるものはなにか。オオバコについても多分1000万年の単位でだが、それに類した競争が行われるはずだ。
- 放置空き地とか公園の目立たぬ場所とかには、クズの葉が我がもの顔に樹木を含めての地上のあらゆる表面を覆っている。花は紫色で秋の七草に数えられる。でも滅多に花を付けない。繁殖の主たる手段は地下茎らしい。おなじつる性雑草でもテイカカズラ、ヤブガラシ、スイカズラなどは趣のある花を季節になると咲かせる。カラスウリも好きな一つだ。クズと双璧の敵役は北アメリカ原産のセイタカアワダチソウだ。これが江戸城の花園の珍種として育てられていたことは有名だ。鉄道沿線に沿って四方八方に繁茂し、日本古来からの風情ことにススキの群生地を毀しだしたために、目の敵のように云われ始めたのが40年ほど昔だ。
- 成育に鉄を好むのではないかと云われたこともあった。日本の雑草が手もなく駆逐されたのは、彼らは根から植物の生育に有害な毒を分泌するからで、それに慣れている北アメリカの雑草は共存できているが、日本の雑草には抵抗力がなかった。アメリカ・インディアンの部落がヨーロッパから持ち込まれた病害菌で全滅したり、インディアンに貰った梅毒がヨーロッパ人にたっぷりと礼を返したりと、人間の間でも未知社会との遭遇はいろんな悲喜劇をもたらす。現在セイタカアワダチソウには昔の勢いがない。本書には自家中毒ではないかとある。北アメリカなら抵抗性植物が適当に存在成育するから株が密集しないが、日本ではねこそぎやられるために株が隣り合って、互いに有毒な関係になると云うことだろうか。噂程度ではない、もう少し正確詳細な記述がほしかった。
- 関西では嫁菜飯が食われるとある。私は京都出身だが、親が作ってくれたという記憶はない。まだ咲いていないが、秋になると咲く野菊の1種だ。でもカントウヨメナで苦みがあって嫁菜にならないと書いてある。ヨモギはキク科だ。キクは植物としては最も進化した種の1つである。ところが風媒花だ。元は他のキク科植物と同じく虫媒花であったが、昆虫など少ない荒れ地を原生地に選んだために、風媒花に逆戻りしたのだとある。本当?
- キク科で小さいながらも整った美しい花を咲かせるのに、割に合わぬ名を牧野博士から貰ったのが「ハキダメギク」だ。風媒花は風任せの生殖だから効率が悪い。花粉症を起こさせるほどに花粉をまき散らさねばならぬ。そのおかげかどうか知らないが、スズメノカタビラは世界どこでも見られる雑草になった。南極基地でまで親類が発見されているという。私も海外に出かける機会があったら調べてみたい。マンジュシャゲの不思議は何回かこのHPを飾った。昔は救荒植物で、球根のデンプンが目当てであったが、今は必要もないのにあちこちで咲く。土地造成の時に球根が運ばれてきたのだ。我が家の近くにも毎年咲く場所がある。埋め立て地だから他所から来た土に球根が入っていたのだろう。
('12/08/30)