
- 百何十年昔の本である。もう齢80代半ばの先生が、尊父の書棚にあった原書を訳されたというから、原書が氏の家に届いたのは発刊間もなくだったのであろう。時代を考えたら、お家は大変なインテリ一家だったと思っていいのだろう。
- 私も父の書棚には関心があり、影響を受けた。漱石全集であった。我が子の代はどうか。本は貴重品でなくなったし、本でなくても情報源は山ほどある。それもあるし先生から、親から受け継ごうという姿勢も以前から見ればずっと弱くなっている。親の書棚の中で一番関心を引いたのはワープロソフトだったてな時代かもしれぬ。
- 博物誌だからそれこそ見聞するもの一切が入っている。生物地理歴史社会何でもござれである。でも私が読んでもっとも心惹かれるのはモンゴル系の顔と紹介されるインディオたちの生き様である。著者もそうであるらしく、異文化と遭遇したときのイギリス人の心情が飾り気無く手に取るように描かれている。昔ファーブルの昆虫記を読んだときは彼の昆虫に対する思い入れが言葉に滲み出ているように思ったが、この博物誌では、割かれたページ数はそう多くはないが、異文化が一番の対象ではないかと思ったし今に生きる内容でもある。
- 概して白人の精神文化に順応しつつある開化部族の評点は高く、害意を抱く連中や欧化を拒む半開、野蛮連中の評点は辛い。開化から野蛮まで種類分けすること自体もそうだが、当時の時代を背負って、白人優越の気風はやはり読みとれる。しかし時代のハンディを差し引けば科学者の冷静な目が秀一である。気風、習俗、社会、歴史はもちろんインディオの心の中まで探ろうとし、天地創造、死後の世界、天体の構造など意識的に科学心、宗教心のレベルを調査している。
- アマゾンは河口から欧化が始まった、つまり彼の表現では開化し出した。今ではTVでときたまに原住民の映像を見るときがある。忙しいスケジュールでアマゾン紀行を送るのだからどれも一瞬の印象であろう。それでも映像は今ではアマゾン源流のペルー奥でももはや欧化の波が押し寄せていることを示す。1世紀あまり掛かってそこまで来たのである。だから私は、彼がたっぷり時間を掛けて接触した上アマゾン流域のインディオの描写に心を惹かれる。芯を抜かれる前の生き生きとしたインディオを見せてくれるからである。
- 久しぶりに見事な日本文に出会った。訳者の実力に敬意を表します。またこの非売本はお子たちの長寿記念出版だそうである。お子たちの優しさに拍手いたします。最後になりましたが、本を贈与下さったことに感謝します。
('97/08/24)