スパコン「京」と人工知能「ワトソン」

6/3放送の「NHK SP コンピューター革命 最強×最速の頭脳誕生」は最近のコンピュータ事情を紹介した番組である。'91年にやはりNHKスペシャルで「電子立国 日本の自叙伝 全6回」があった。電卓を突破口に、日本がアメリカを凌駕する半導体産業を確立したときの、はにかみながらも誇らしげな日本人の顔を彷彿とさせるいい番組で、私はテープに録画して何回も繰り返し見たことを思い出す。この「電子立国 日本」の言葉はたいそう気に入って、本HPにかなりの処に採用している。現在ではNHKオンデマンドで見ることができるが、公開終了が迫っているから、興味のある人は機会を失わないようにしてほしい。半導体産業は韓国に持って行かれた。今の日本の半導体産業は、気息奄々だ。ただ「韓国の自叙伝」が出るとしたら、彼らは何を足場にして今日に至ったと主張するのだろうかと幾分皮肉な思いで考える。半導体では競争に負けたらしいが、日本の頭脳はもっと最先端のスパコン(コンピュータ"京"、K computer)や人口頭脳ソフト開発に向かっていた。
4日前に読売にミニ京の記事を見た。京の1/1000程度の計算能力だが、京と同じプログラムが使えるから、プログラムのお試し仕事に向いている。和光市の理研に設置されるが、インターネット回線でどこからでも操作できる。普通のスパコン用のプログラムでは旨く動かないから、お試し用が要るらしい。
京とは数の単位で、万、億、兆の次だ。10の16乗である。1秒間に1京回の計算が出来る能力という。計算は四則演算で、15桁だと云ったように記憶する。それは従来最速機(中国)の4倍の速度だとか、ただしアメリカでは京を越える高速機(倍速)が最終調整段階に入った。京は始動してから1ヶ年になる。最速である期間はだから1.5-2年程度のようだ。一度は事業仕分けにかかり、「二番手ではいけないのか」という迷言を生んだ因縁のスパコンである。開発期間は8年と云った。88000個のCPUを積む。地球シミュレータのように特化されておらず、いわば汎用だ。ベクトル型のNECと日立が途中で撤退したために、理研は損害賠償を訴えた。初めはスカラ型との複合機になる予定であったが、撤退のためにスカラ型になった経緯がある。ベクトル型とかスカラ型と云ってもコンピュータの専門家でない私を含めてのヒトには判らないが、一応そんな話がWikipediaにあったと書いておこう。
インターネットで解説記事を探してみたが、あまり適当なのがない。「京都からの提言〜21世紀の日本を考える」第7回シンポジウム(3/17)での講演:「スーパーコンピュータが拓く未来」(中島浩・学術情報メディアセンター教授)によると、スピードにあたる周波数だけでなく、並列演算数やプロセッサー内並列計算と呼ばれる能力がすごいのだそうだ。京には小さいコンピュータが、大型冷蔵庫のようなキャビネット(写真で見るユニットの筺のことだろう)に102個入っている。それを横に24個、縦に36個並べてつないでいる。個々の部品は普通のパソコンと変わらないが、互いの計算結果を伝えられるよう、太くたくさんの通信路でつないでいるという。この「京都からの提言」は、京大にある22の附置研究所・センターの合同主宰のシンポジウムで、第7回は神戸で行われた。私はiPS細胞が俄然世の中の注目を浴びたときに、横浜まで聴講(本HP:シンポ「京都からの提言」)に出かけたことがある。
IBMの人工知能コンピュータ「ワトソン」が遂にヒトの判断能力を超えた。開発に4年をかけたという。アメリカのTV人気クイズ番組で、クイズ王と対戦し、彼を打ち負かした。そのためにワトソン開発チームは機械学習という方法を使って、ヒトの判断力をコンピュータに植え付けた。将棋で米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズの電王戦が今年の正月に行われ、ボンクラーズの勝利に終わった。チェスでコンピュータ・ソフトがチャンピオンに勝ったのはもうだいぶ昔の話になっている。その延長線上と云えば延長線上だが、おおよそクイズ番組の複雑さはゲームのそれを遙かに超すから、ワトソンが人智を凌駕したと紹介されても納得がいく。
金融業界ではこの種の人工知能コンピュータが株の売買活動を支配している。やはり機械学習により知能を磨く。ある金融ファンドの実態を紹介していた。大型コンピュータがいわば大親分で、彼の指令に従ってファンドを動かすのである。人智で修正するようなことはない。ところが業界の数千のコンピュータが、互いに仕掛けながら、株の売買合戦を行うと、人間なら当然に異常と気づく極端な株価の乱高下が、瞬時に起こる。たった4秒で株価がゼロに近づいた例が示された。そんな事例がすでに何百と挙がっているそうだ。
ガン専門病院が人工知能コンピュータを駆使しようとしている。症例をかき集めた診断プログラムが判断を下す。病院での患者と医者のやりとり、藪医者でも名医になるという話が面白かった。
我が国でのはっきりスパコン活用の応用研究として紹介されたテーマは、理研のタンパク質の三次元構造を使う抗ガン剤の創薬である。ほかに大災害時の各個人への行動指示、東大入試数学問題を解くコンピュータ、脳波によるロボット運転などが出ていた。どの応用でも「早さX賢さ」で先陣を競う。総論として指数関数的に増大するヒトと社会に関する情報を、咀嚼し解析し新たなデータに仕上げて行くスパコンは、ますます高速が要求され、各国がしのぎを削ることは間違いない。2番手なんてもってのほかだ。科学予算を削減して、バラマキを増やす政権は退陣して貰いたい。
アニメ画面でこの世の人でないバーチャルな父と話し合う将来像があった。もし生前の父が行動思考の記録をコンピュータに残しており、コンピュータがそれを総合的に纏める人工知能を備えるようになったら、あるいは可能なのかも知れないと思った。

('12/06/08)