さわやか自然百景
- 日本の自然を映像で楽しませてくれるTV番組は結構多い。その中でNHK:「さわやか自然百景」シリーズはお気に入りだ。15分と短めなのがいい。それに特に民放などではそうなのだが、自然の紹介が目的なのか案内人の自己宣伝が目的なのか判らない番組の多い中で、それこそ「さわやか」に、科学者の目を基本に、自然への愛情を込めて話す言葉が耳に快い。見放しではもったいないと感じている。数多い映像の中から、特に気に入った番組を以下に記録しておく。居住経験、旅行経験など何らかの関わりがあった場所が「特別のお気に入り」であるのは致し方がない。
- NHK放送局のアーカイブス・コーナーで、「さわやか自然百景」の中の「京都 鴨川」の水鳥渡り鳥風景を見たのが、この文章を纏めようと思った切欠であった。京都には少年期青年期の20年を過ごした。上流のオオサンショウウオも映した。私は魚釣りはやらなかったし、サンショウウオが有名になり出したのは大人になってからだ。だからか見たことがない。誰かが放流したらしい、チュウゴクオオサンショウウオとの交配雑種が鴨川で野生化して、在来種に取って代わろうとしている話が報道されたことを思い出す(本HP:「身近な雑草」)。
- NHKオンデマンドで「大阪 淀川」を見た。4月上旬から5月にかけての情景だ。ユリカモメの大群が来る。淀川河口は大潮になると1mほど水位が上がるという。引き潮では干潟が出来て鳥の休息地をつくる。ユリカモメは渡り鳥で、北に帰るころには頭は黒い羽毛に置き換わる。繁殖期特有の現象という。鴨川にくる水鳥は琵琶湖からだと云ったように記憶する。一見鴨川川敷きと似ている。だが河口の汽水域独特の部分がある。ヤマトシジミがいるのだ。アシが生えて、小魚の宝庫になっている。河口だから芦原や干潟はシギとかサギとかに属する海鳥を呼び込む。チドリも渡る途中に立ち寄る。90cmほどのダイサギが河口で見られる最大級の鳥だという。カワラヒバ、ハクセキレイとも私はまだ自然界で見たことがない。わんどのバンというクイナの1種も知らなかった。わんどとはそもそもは船泊まりのための人工の池だったそうだ。120種ほどの鳥が観察できるという。250万都市大阪に残された貴重な自然という解説だった。
- その「箱根山」は春丁度今頃の'10年の映像である。我が家からはそう遠くない位置なのに自然はずいぶんと異なる。65万年前から活動する箱根火山運動は3重のカルデラを造った。アトリとかキセキレイは近所では見たことがない。マメザクラも早春のツツジもスミレの各種も、山が樹木の緑で覆われる先に咲く小さなトラノオも見たことのない種類であった。
- 「能登半島 七尾湾」も4月の風景だ。富山湾は北アルプスの冷たい水が流れ込む特殊な環境だとは承知している。先日ホタルイカが不漁である理由に、この冷水が海表を覆っているので、海底からイカが上がってこないと解説していた。七尾湾は半島に取り囲まれ穏やかだ。アマモは海中の顕花植物だ。その花を見せる。雌雄の区別がある。花粉が海を漂う。ホンダワラがまっすぐに伸びるのは気泡のおかげだ。浮子になっている。深さ10mぐらいには楽に伸びるらしい。これら海藻の中に小魚が住み着く。知らない魚が多い。ナマコが生息している。海の掃除屋という。ムカデの足のような管足で1分に5cmほどの速度ながら広範囲に歩き回るという。外海や海底からクラゲがやってくる。結構種類が多い。有毒なもの、クラゲを食うクラゲなどの紹介がある。私には幼い頃明石の海岸で水泳中にクラゲに刺された記憶が残っている。ミナミハンドウイルカが5頭群れを造って住み着いている。北限だそうだ。食料豊富で競争相手が少ないのが理由だろう。
- 「知床半島 早春」は4月下旬の遅い春が来るまでのエゾシカの生態を追う。エゾシカが森林を毀していると聞いたことがある。熊とのバランスが崩れ、エゾシカの数が増えたのだ。エゾシカは冬には樹皮をも喰って飢えを凌ぐ。雪の草原に70頭ほどの鹿が集まっている。雪の層が薄いので笹を喰い安からだ。鹿は牛と同じく反芻動物で、セルローズを食料に出来る。春が来るとオスの角が抜け落ちるが、秋の繁殖期までには再生する。角が武器のオスシカは角がない間は、角が抜けない若いシカと順位が換わって、びくびくしながら生きる話をどこかの映像で見た覚えがある。
- 「花の浮島 礼文島」は、花と蜂の共生関係を中心に、その豊かな自然を伝える。夏も終わりに近づくと紫がかった花が増える。マルハナバチに属するハチは紫色がお気に入りだ。マルハナバチは一度とまった種類の花を、その後も好んで選択するという習性があるという。花にとってはまことに都合の良い相手である。レブンソウとエゾカワラナデシコに対してはエゾトラハナマルバチが、ツリガネニンジンにはエゾヒメマルハナバチが紹介された。レブンとかエゾと頭に付いているものは固有種を示すのだろうから、長いお付き合いであると判る。ただし礼文島は、隆起と火山活動で今から1万年ほど前に現在の姿になった比較的若い島だ。礼文島の植物は高山植物であるものが多い。夏でも15−20℃という寒冷と強い風が、背の高い樹木を許さないといった点が、高山植物を有利にしている。何回か花の季節にクルーズで立ち寄った島である。半袖ではえらく寒かった記憶が蘇った。
- 「北アルプス 穂高の秋」は涸沢が舞台である。3千m級の高山に3方を囲まれ、風静かで、夏も雪渓が残る高山植物の宝庫だ。地形は氷河による造形だ。秋の深まりとともに南に去ってゆく鳥たちの中でライチョウだけは動かない。ライチョウは氷河期の残党だそうだ。猛禽と違わぬ強い足は、ほとんど飛ばずに、歩いて草の実を求めるこの鳥に適した構造である。私は初夏のアルペンルートの立山でこの鳥を見た。冬は羽毛が白に変わる。
- 「愛媛 赤石山系」は春から秋にかけての植物を追う。赤石山系は私が若かった頃ときおり歩いた懐かしい場所である。でも映像に対する記憶はほとんど無い。西赤石のアケボノツツジの薄ピンク色に咲いた群落の映像が出たときは、見ていなかったことを本当に残念に思った。解説されるこの山系の特異な姿は全く耳新しかった。それでも中央構造線や別子銅山は理解していたから、それらとの関連の解説は興味深かった。高山植物が生育している。構造線が動いて露出状態になったかんらん石はMgとNiに富むが、この元素を含む化合物は植物の生育に有害な場合が多いので、植物は多くは生えず、土地は無機状態に保たれる。東赤石はそんな岩山だ。高山植物のある種類にとって生き残れる条件だった。40種類もの高山植物が花を付けるという。山の頂部は風の通り道であるために、土が吹き飛ばされやすい。大型の植物が育たず、岩肌の占める割合の多い土地は、ツガザクラの全国的に珍しい群落を生んだ。山中で300年にわたって操業を続けた別子銅山が、排気で大型植物の育成を阻害したことも、ツガザクラにとって好都合であった。1500〜1700mとそう高山でもないのに高山植物が育つ環境に、自然の妙味を感じた。
- NHK SPの「仁淀川〜青の神秘〜」の感想もここに納めておく。これは最近TVで見た。「さわやか自然百景」とは異なり、この番組は文学的表現と芸術的撮影を心がけている。仁淀川は昨年度の国の調査で日本一の清流という折り紙を頂戴した。四国の石鎚山麓から太平洋に向かって流れ出る河川である。四国の清流と云えば四万十川と誰しも思うだろうが、もっと澄んだ河があったのだ。流域には10万人が住むという。人に起因する汚れが低度なのは水量のおかげだろう。地図を眺めてみる。今では近くの尾根まで登山自動車道が開通しているから、石鎚登山は上級のハイキングコースになった。私が四国にいたころは、そんな道路はなかったから、石鎚山は山小屋泊まり含みの初級登山家のコースだった。山を瀬戸内側から越すと、面河渓に至る。モミジの名所として名高かった。橋の上からたくさんの魚影を眺めることが出来た。
- 仁淀川はこの面河川の下流である。だが映像には面河は出てこない。ダムが3ヶ所にあり、横を国道が走り、登山自動車道が走る。人臭くなって映像にならないのだろう。山の冬の霧氷の顕微鏡写真は美しい。虹の一角を、てんでばらばらに氷の微結晶が切り取って、自らの勲章にしたような写真になっている。純水に近いからこんな結晶になれたという。水中カメラは、この青く澄んだ水は何10mも先が見えるほどに透明だという。大量に雨が降る地帯だ。溶解物とかコロイドとか懸濁物とかが薄まるから、青い光が遠くまで届くのに加えて、この地に多い緑色片岩のおかげの、岩の緑が加色されるのだろう。清流の証拠は生息動物からも見て取れる。夏のゲンジボタルの群舞、遡流するアユの群れとそれを狙うカワガラスにカワセミ。最後は高知市の西隣の土佐市で太平洋に注ぐ。水流があるから、河口の汽水域はごく限られているようだ。
- NHKアーカイブス「土佐・四万十川〜"最後の清流"と生きる〜」がたまたま上梓の日に流された。'83年放映のNHK SP「土佐・四万十川〜清流と魚と人と〜」の再放送だった。伝統的漁法を中心にこの川の恵みを伝える。ゴリは5里(約20km)で、頭でっかちの小魚故に、懸命に泳いでも川口から5里程度しかさかのぼれないという意味だとは面白かった。泳ぐ力が小さいのを利用してゴリを箱に追い込む漁法を紹介する。イタチの毛皮を竿の先につけて岩陰に泳がし、ウグイを追い出す漁法は、イタチの毛皮の匂いをウグイが嫌う習性を利用したものという。アユは流れの穏やかな下流で産卵する。落ち鮎だ。生まれて産卵して命を落とす。僅か1ヶ年しか生きない。7艘の漁船がかがり火で夜にアユを追い込む漁法を紹介していた。
- ウナギを竹筒や木箱で捕らえる。餌はミミズとかエビである。1艘で前者は250筒、後者は50箱を川に沈めて翌日の漁獲が前者が3kg、後者が2kgと云った。笹束を沈めておくと、エビやウナギが係った。現代の四万十川を最後に紹介していた。特産のアオノリは川の石に上流からの土粒子がこびり付いたためにさっぱりになり、ゴリ魚も1/10ほどに減ったという。アユは稚魚放流で漁獲を維持しているようだ。ウナギは出てこなかったが、もうダメなのか。私は利根川川縁の佐原で天然ウナギが自慢の川魚屋を訪ねたことがある。もう何10年も昔の話だが、そのときすでに養殖ものに換わっていてがっかりしたことがある。四万十川も半世紀遅れで利根川の轍を踏むことになったのだろうか。
('12/04/29)