身近な雑草

森昭彦:「身近な雑草の不思議〜野原の薬草・毒草から道草まで、魅力あふれる不思議な世界にようこそ〜」、サイエンス・アイ新書、'09を読む。ここ2〜3年、身近な雑草に惹かれている。まあその8割方の草の名が判るようになった。でも少し遠出をすると、名も知らぬ草花にお目に掛かる。本書は日本全国を対象にしているのだろうから、その手の草がたくさん記載されているだろう。目次をざっと眺めて、半分は記憶にない草だ。毒草だ、薬草だと云われると私の知識はもっと頼りない。以下本書に目を通しながら、気付いた点などを気楽に列挙してみたい。
私の生まれと育ちは京都だ。タンポポは黄色い花だと信じていた。でも私が植物分類に信頼を置いているhad0.big.ous.ac.jp(岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム学科 植物生態研究室(波田研)のHP)には、中国地方では、瀬戸内側を除き、セイヨウタンポポなどの帰化種が侵入するまでは、タンポポといえばシロバナタンポポを指していた(ちなみに、岡山市から広島市までの瀬戸内海沿岸域では、在来種は黄色い花の咲くカンサイタンポポがメジャーである)とある。本書にはカントウタンポポが関東の在来種だとある。シロバナタンポポも進出しているそうだが、私は佐倉の歴博の敷地で何本かを見たことがあるだけだ。都会地のタンポポは大半がセイヨウタンポポだとは知っていた。だがDNA解析によると父がセイヨウ、母がカントウの雑種が85%を占めるという。染色体数はカントウ2n、シロバナ5n、セイヨウ3nで、カントウとセイヨウの雑種なんて一見ありそうにない。カントウとシロバナは雑種を作ったという話を聞いてない。でも交雑の話を調べると、こんなケースがあり得るのだそうだ。ちょっと驚きの新知見だった。
NHKで面白い話をしていた。京の賀茂川上流に住むオオサンショウウオの話だ。この川でもアユ?の稚魚を放流して育てている。ところが成魚の姿がめっきり少なくなった。オオサンショウウオに食われている。在来種は待ち構えて通りすがりのアユを食う習性を持つから大して減らないはず。調べてみると在来種と中国種の交雑種が大繁殖しており、それが積極的のアユを追いかけて食う習性を持つために、アユがどんどん減少すると判った。誰かが中国種を放流したための自然破壊だと。素人には在来種も中国種も雑種も外見からは見分けが付かない。
イネ科の雑草は区分けが難しい。私がイネ科に興味を持ちだしたのは、北に帰るムクドリが群がって、公園の芝生で餌を探している姿からだ。昆虫を突き刺しているにしては食べる回数が多いし、毎回確実に口を動かすのは、植物の実を拾っている証拠だ。ドングリを食っている姿など見たことがない。それなら雑草の落とす実のはずだ。シバ自身もイネ科だが、公園には圧倒的にイネ科雑草が多い。加曽利貝塚を見学に行って、一帯にホソムギの大群落を見た。古代に飢饉が訪れたとき、ホソムギなどはお米ほどではないにせよ結構実が付くから、飢えを凌ぐのに用いられたのではないか。牧草にはイネ科が多い。牛はセルローズを消化するにせよ、デンプンの詰まった実にしくはなしだろう。
そんな話は勝手な妄想だが、米を主食にする民族であることも手伝ってか、私は周辺のイネ科雑草の同定に取りかかった。植物分類学など勉強したことはない、ルーペも虫眼鏡も持ち歩くのはたいそうだ、写真機は操作が大変だし、目立たぬ草花にレンズを向けていると、変人扱いの理由になってしまう。だからもっぱら肉眼観察で記憶、上記岡山理科大HPと首っ引きで特徴を比較、不確かなところを確かめるために、明くる日又出かける。時には庭の管理人が雑草を刈り取ってしまったために、来年の発芽待ちという事態も時々起こった。同じ草でも生長につれて、例えば穂の垂れ下がり具合が変わってくる。図鑑にはある瞬間の写真が、多くて2-3葉しか出ていないから、間違いの元になる。
今困っているのはセイバンモロコシ類似の雑草だ。群落の中に1株だけ堂々と自己主張している。外寸と穂の姿は全く同じだが極端なやせ形でしかも色調と葉が違う。色白で細葉だ。ヒメモロコシとかカゼクサとかシナダレスズメガヤなどが候補に挙がるが判らない。イネ科は種類豊富で、同じ属の中でもわんさとひしめき合っているから、交雑種の可能性はタンポポどころではないようだ。ヒメモロコシは同属だが、カゼクサともう1つはスズメガヤ属でセイバンとは他人の空似になる。セイバンも電車道と海岸ではちょっとづつ違っているみたい。比較すると籾から出ているヒゲがなかったりあったり。イネ科の分類は難儀である。
平岩弓枝の「御宿かわせみ」の「源三郎の恋」では、草餅が事件の小道具になっている。小説とNHKドラマでは筋が違っていて、原作では食った老婆は死ぬがドラマでは蘇生する。草餅の草はヨモギだが、故意に毒草が混ぜられた。ドラマでは、ヨモギを摘んだ老婆が毒草を見分けられないはずがないことが、事件解決の重要なヒントになっている。小説では、誰が摘んだとも書いてないし、毒草が混じって中毒事件が起こった事例があると一般論が出ているだけである。ドラマのシナリオに従って考えてみた。江戸末期に在来種でヨモギに似た毒草と云えばキンポウゲ科植物だ。トリカブト属、イチリンソウ属、キンポウゲ属いずれも葉の姿がよく似ている。
トリカブトは古来猛毒で有名だ。キンポウゲは春になると古里の山野に一面に咲く。だから何となく毒性を知っていた。ついでながらその古里ではマムシグサに出会う。これも毒性がきついらしい。本書にニリンソウが出ている。イチリンソウ属である。それがなんと食用になるという。天ぷらなど乙な味だという。フグ毒を思い出す。あの肝を舌に載せると、毒が神経を痺れさせる。それがたまらなくてフグ毒を熟知した連中が、惹かれて死んでしまう。ニリンソウを食用にするときにその心配はあるまいな。ヨモギの区別はやっかいだ。キク科の雑草にはキンポウゲ科よりずっとよく似たものがいる。私は葉をちぎってそれをごしごし揉み、嗅いでみて区別することにしている。ブタクサだってノコンギクだってよく似ているではないか。新潟が古里のヒトがいる。里帰りから戻るときはいつも草団子を土産にくれる。何代も続く老舗の草団子という。ヨモギはまさか人工栽培ではあるまい。目の利く山菜採りがいる間は安全だが、農家の跡継ぎが地所の権利を守るためだけの存在になって、野原のK/Hが途絶する時代が来かかっている。伝承して欲しいものだ。
ラベンダーは葉の裏側に香油の粒をたくさん付けている。だからラベンダーの葉を根本に近い方から先端の方向に掌で絞るようになでると、手にはラベンダーのすばらしい香りが移ってくる。これは梅錦ガーデン付属のハーブ園で聞き覚えた。梅錦ガーデンとは四国の丹原町にあるビール醸造所付設のビアガーデンで、四国在住時のお気に入りの場所であった。長い間ラベンダーだけのことと思っていた。先日NHKためしてガッテンで、青ジソの調理法の説明において、青ジソの裏面には腺鱗(センリン)があり、香りの元になっていると紹介された。ラベンダーもシソ科だ。
シソ科の草は身辺に多い。セージ、サルビア、ミントという名をかぶったものが何種類もある。わりと花期が長い。ほとんどは葉の裏に強烈な匂い袋を持っている。香りの薄いもの、たとえばサルビア・グァラニチカなどは葉の扱いに注意がいる。間違っても揉んではならぬ。揉むと草いきれが勝って、せっかくの香りが台無しになる。観葉植物のコリウスだってシソ科だ。だが残念ながらこれには香りはなかった。同じシソ科でもハーブ系と分かれて遠い属に入っているのだろう。本書にキランソウが出ている。ジュウニヒトエの親類だ。私は知らなかったが、ジゴクノカマノフタというたいそうな別名を持つ。優れた薬草で、医者殺しという別名さえ与えられている。これで治ってしまう患者が多くて、ヤブは上がったりになると云う意味だと書いてあった。これもシソ科である。香りを嗅いだことはないし、何とも書いてないがハーブに分類されている。ハーブには入っていないと思うが、タイマツバナという美しい花がある。これもシソ科で、先日葉の裏を擦ってみたら強烈な香しい匂いを持っていた。
以下は「身近な雑草U」に続ける。

('11/09/17)