発酵の里こうざき
- 3/14(日)、下総神崎の「発酵の里こうざき酒蔵まつり2010」に行ってきた。1日だけのお祭りである。臨時の快速すいごうで駅に到着したのが10:17であった。出発は千葉駅が8:55、佐倉で12分、成田で10分止まったので、快速と言いながら普通電車よりも遅かった。停車した駅は佐倉、成田、滑川である。成田駅までの車窓からの風景はもうほとんど都会であった。電車は新宿発で、東京からの乗車だったら指定席券の価値は高かったろう。枡席は全部埋まっていた。戻りは15:21の普通で、たいそう混雑した。5時間ほどほぼ立ちずくめであった。
- 駅からはシャトルバスが往復していたが、我々は歩いた。15分ほどで歩行者天国に到着する。この神崎町には造り酒屋が2軒ある。仁勇で知られる鍋店(なべだな)と五人娘(私は知らなかった)の寺田本家である。そもそもこのまつりに参加するきっかけは、町役所の舟運体験ツアー(屋形船)に応募し、その抽選結果(外れ)をもらったからである。歩行者天国の道路は歩道なしの2車線で、道路に面した空き地一杯に色んな臨時店舗が並んでいる。晴天も幸いして、あらゆる場所がヒトで埋まっていた。地元民の素朴な品々を並べる出店ももちろん多いが、明らかに域外からの出店もある。歩行者天国に到着するまでの位置に「福ちゃんのパン」店があって、夫婦で作っている。普通のパン酵母じゃなくて酒酵母を使っているとニュースになったとかで、入れ替わり立ち替わり客が来た。もらったビラにはこだわりとして、国産小麦を使い、寺田本家の酒粕から酵母を起こしているとあった。10時半頃にはすでに売り切れで、2時半頃やっと食パンを買うことができた。何ともマスコミの宣伝力は大きい。
- 我々はまず鍋店の酒蔵に入った。入り口で仁勇ぐい呑みをもらう。あちこちの試飲用だ。まずは蔵内見学の列に並ぶ。そう大きな蔵元ではない。飛騨高山や金比羅さんの町で見学した酒蔵ほどのように思った。後で見学する寺田本家もほぼ同じ規模と思う。まず蒸米機。単位操作ごとに説明員がついている。蒸米のサンプル3種を見る。山田錦35%とは、精米機で収量が35%になるまで研いだ蒸米と言う意味だ。聞かなかったが大吟醸クラスなのであろう。コシヒカリ90%と言う蒸米もあった。食べ比べたが差がはっきりしなかった。たしか研げば研ぐほどタンパク質が減って炭水化物だけになる。タンパク質は表層に多い。靴を脱いで上履きに履き替え、手の消毒をしてから上っ張りと帽子覆いを付ける。雑菌の侵入を押さえるためだろう。1F土間には所狭しと琺瑯引きらしいタンクが並んでいる。見所の大半は2Fに配置されている。
- 3/9のNHKプロフェッショナル仕事の流儀で杜氏・農口尚彦氏が放映された。こことそっくりの麹室で蒸米に種麹を振りかける杜氏の姿を出していた。彼が下戸であることが嬉しかった。四国の今治に今はもう無くなったが今治大丸という百貨店があった。新酒の頃だったと思うが、簡単な利き酒コンテストを客集めにやっていた。存外に当たらぬものだ。でも私は全部当てることが出来た。私も下戸だが、酒が飲めなくても味はわかるのである。その番組を見て、かえって敏感なのかも知れぬと密かに思った次第。麹室は熱い。昔々の神代の頃の炭水化物の糖化はヒトの唾液の中の酵素に頼った。だから、麹と唾液の酵素が同じかどうか知らないがそう化学構造が違わないだろうから、人肌の温度ぐらいが糖化酵素の最適温度なのだ。だが麹室をでると周囲は寒くなる。アルコール発酵を担う酵母菌は自然に存在する。私はワインを猿酒と呼んでいる。果物を木のくぼみに詰めておけば猿でも酒が造れるからだ。温度はだから気温である。いい酒にしようと思えば雑菌の繁殖を防がねばならない。そのためには低温が好ましいのだ。酒は夏には造れなかった。
- 蒸米は固飯だ。麹化が進むときにまず表面の糖化が起こる。温度が高いから時間とともに水分の蒸発がおこる。すると麹菌は繁殖により有利な蒸し米の内部に向かって増殖する。だからまんべんに米全体が糖化されるのだと説明されていた。
- ?(酒母)造りは小型のタンクで行う。酵母菌の増殖を行う。酵母の栄養源である糖の生産のために、麹菌で糖化を行いながら酵母を増やす。平行複発酵というのだそうだ。種酵母は、日本酒造協会酵母の1号から18号までの内から選び購入するものらしい。小型に小分けする目的には、失敗危険分散とか酵母品種が多いからであろう。雑菌抑制に乳酸を添加している。この蔵の酒母は所謂速醸?である。あとは大型タンクで大量の麹、蒸米と仕込み水へ?を入れて1ヶ月ほど発酵させ、酒粕と酒を分け瓶詰めして出荷という段取りになる。出口に槽口(ふなくち)酒の試飲デスクがあった。八千代桜という品名の酒の吊ししぼりと機械式しぼりの2種が置かれている。前者は細長の布袋で自然濾過させた酒、後者はその袋を機械的に圧縮して、最後の一滴まで絞りきった酒だ。味は同じだが、香りが前者の方がいいように感じた。ここではじめて受付でもらったぐい飲みが役立った。
- 中庭に食い物の屋台が並んでいる。まず甘酒。酒粕汁に砂糖で甘味をつけた飲料という。次に酒饅頭。せんべい。正午になったから、けんちん汁。座る場所もないから立ち食い。利き酒コーナーはもう終了していた。試飲コーナーは遠慮した。甘酒程度で赤くなる下戸は、本当にこんな時はつまらない。タダ酒に悪酔いした人を見た。卒業したときの総長訓辞に「タダ酒は呑むな」とあったのを久しぶりに思い出した。特設ステージのお囃子は蔵の中で聴いていた。鍋店蔵を出ると、丁度踊り子隊と吹奏楽隊が通るのに出会った。
- 寺田本家は20人ほどに蔵人1人を説明員に付け、プロセスを順に案内するやり方を取っていた。私のグループには若手の蔵人がついてくれたが、五人娘の商標の入った前掛けと頭にかぶった手ぬぐいがよく似合うヒトだった。あとでもらった寺田本家のパンフレットを見ていたら大野考俊さんとわかった。あらためてご案内に感謝します。杜氏以下計6名で蔵を切り盛りしているらしい。蔵の真横に神崎神社の神々が鎮座まします小高い丘がある。そこを水源とする地下水がここの酒の仕込み水だという。卑弥呼の時代より神と酒は縁が深いが、この蔵ほどに繋がった酒もめずらしい。出来る限り機械化を避け手作りの酒を醸すというのがこの蔵の方針だ。麹菌も自家培養品で、麹屋から仕入れたものではない。自家の田んぼの稲穂に付く稻麹菌から種を取って培養した。
- ?造りは、最近は行われなくなった生?造りである。蔵付き酵母、乳酸菌、硝酸還元菌を使う古式だ。30-50日かけて熟成する。もろみ造りはほぼ1ヶ月で、アルコールは20度(vol%)近辺に達する。三段仕込みの説明に酵母をアルコールで鍛えるという表現があった。アルコールは消毒に使うほどだから殺菌力がある。下手をすると酵母を自殺させる。菌のアルコール耐性をじわじわと引き上げるのにいい方法らしい。ヒトでも飲み続けると腕が上がる、菌でもそうなのだろう。でも上限に達するといよいよ酵母も死滅する。すると(これは鍋店で知った知識だが)異常にアミノ酸が増加して酒の味に影響する。だからいつ発酵をストップするかが杜氏の腕の見せ所だという。アルコールを自生する酵母と違って雑菌の耐性はぐっと低かろう。市販の酒は割り水を入れてアルコールを15度ぐらいにしてある。
- 利根川川縁には昔から醸造産業が育っている。野田、佐原と銚子の醸造蔵は何度か見学に訪れて知っている。もう蔵を閉じた店も見た。酒蔵、醤油蔵、味噌蔵。この小さな集落・神崎本宿に行き方の対照的な2軒の造り酒屋が並び立っている。江戸の風情を残す佇まいは好きだ。今後の持続的繁栄を願う。仁勇と五人娘は一度飲み比べてみよう。丘を登って神崎神社に詣で、神殿脇の御神木:国指定天然記念物大クス「なんじゃもんじゃ」を見た。正面の鳥居から見た神社は石の階段がどこまでも続くかのようで、なかなかの雰囲気を持っていた。
('10/03/17)