戦闘ヘリ:アパッチ

坪田敦史:「AH-64アパッチはなぜ最強といわれるのか〜驚異的は攻撃力をもつ戦闘ヘリコプターの秘密〜」、サイエンス・アイ新書、'09を読む。我が国は二次大戦に破れた。重大な敗因の一つに科学技術力の差があった。開戦当初は互角以上の性能を持った兵器もあったが、敵の開発力について行けず、結局は打ち負かされた。戦後しばらくして、個々の兵器を解説する叢書が出版され、読み漁った記憶がある。近年の中国軍の増強はすざましい。今年は6.9兆円の予算で、米国に次ぐ世界第2位であった。台湾沖、日本近海などで、自信に満ちた、摩擦を恐れぬ行動を取るようになった。私は再び自国の防衛体制や装備について検討をする時期に来たと感じている。国力の豊かな割に手薄い防衛力は、日本の平和理念とは無関係に、おいしい対象と、周辺国には受け取られているに違いない。我が国のように、防衛予算がこの8年間に漸減し、GDPの1%を切るようになった国は、世界を探しても珍しい。アパッチはわずか10機だそうだが、陸上自衛隊の虎の子なのだ。その実力を知ろう。
アパッチはベトナム戦には間に合わなかった。それでもその前駆機の威圧的な勇姿はニュース報道や戦争映画で知っていた。空飛ぶ戦車である。軽装備のゲリラなど奇襲以外に有効な対抗手段はない。ホーおじさんと人民軍の勝利は驚嘆に値する。アパッチはベトナム戦の頃とは比較にならないほどに戦闘能力を向上させた。なんといっても電子技術の進歩が著しい。本HPの「自動車のハイテク」にもいろいろ紹介されているが、搭載の個々の兵器、索敵能力、ネットワークによる総合判断力など、アナログからデジタル方式に転換した頃から爆発的な進歩があった。レーダーで時には10kmほどもの遠方を識別し、自らの兵器と地上との連携で攻撃、300km/hに近い速度で移動する。地平線は2km先なのだから、敵はうかつに兵の移動もできない。23mmの重機関銃の弾も貫通できない。湾岸戦争ではイラク側のレーダー陣地は戦闘開始後4分で吹っ飛んだそうだ。アフガンの過激派はどんな対抗手段を講じているのだろう。でも高価な兵器だ。アメリカ製が75億円、日本でライセンス製造すると200何十億円にもなる。もちろん1機あたりの値段である。
射撃手が前で、操縦士が後部座席だとは知らなかった。兵器は30mm機関砲、ロケット弾にミサイルまで積んでいる。砲弾にもいろいろ種類があって、たとえばロケット弾には徹甲弾、榴弾、成形炸薬弾、多目的小爆弾、発煙弾、照明弾、信号弾、訓練弾などが書き上げてある。打ちっ放しのロケット弾に対しミサイルは敵の動きを追尾する。空対地が主だが、空対空も備えることができる。射撃手、操縦士がかぶっているヘルメットに連動するセンサーが機首についている。射撃手用は、目標を指示補足し、追尾し、照準を合わせるレーダーで、夜間戦闘用には赤外線が使える。補足後は選択した攻撃法によって自動で相手をやっつける。操縦士用は赤外線センサー方式で、夜間暗視装置でもある。射撃手用レーダーも参照できるようになっている。アパッチに特徴的なのは、ロングボウ・レーダーという35GHzのミリ波レーダーが、回転翼の上についていることだ。探索と目標の選別特定化照準を瞬時に行う。地上の対象物認識は、空の飛行機とは違って、いろいろな反射波の中の識別であるから、きわめて困難な技術なのである。その情報は編隊の各ヘリや地上部隊とネットワークで共有し、総合的な戦闘力を向上させる。「自動車のハイテク」でも出てきたように、ミリ波は霧、粉塵を透視しつつ、正確な判別を行うために欠かせない波長であるが、機器は非常に高価につき、全機に搭載するわけではない。
敵も防空ミサイルを発射してくる。その目はレーダーか赤外線だ。レーダーに対する目くらましがアルミ箔の散布だ。「眼下の敵」という名画で、潜水艦が駆逐艦のソナーから逃れるために、大量の油滴をばらまいて超音波の反射を攪乱するシーンがあった。アレをレーダーに対して行う。赤外線を追尾してくる相手には、強力な赤外線をパルス状で送って、目標が検知できないようにしてしまう。二次大戦の時ドイツが音響魚雷を発明したが、イギリスは大音源を艦尾に曳航することで目標を誤らせて命中を回避した。原理は同じである。赤外線探知を困難にするために、排気ガスに空気を混ぜて温度を冷ます配慮もやっている。敵の探知を逆探知するシステムも備わっている。エンジンは2基あって片方だけでも相当長く飛べるし、両方は防火壁で隔てられている。射撃手は副操縦士でもある。撃墜されても乗員が無事なように、衝撃回避のための構造に設計されている。自動車の安全設計と同じだ。現場の整備はコンポーネントの丸ごと取り替えで、IT機器修理でやっているのと同じ方式だ。
次世代のアパッチは'12年には実戦部隊に配置される。その最大の特徴は無人ヘリを運用できることにある。被弾の可能性がある地域の手前から遠隔操作で無人機を操縦し、80kmも遠方のデータまで入手できる。無人機以外からの航空機からの情報も含め、各部隊に情報の相互運用を可能にするシステムが開発中だ。戦場は実況中継されて、各部隊が有機的に連帯した行動が取れるようになる。無人機の活動は、アフガンやパキスタン北西での戦闘ニュースに、再々出てくるようになった。対テロ戦ではアパッチは輸送ヘリの護衛目的に多用されているという。無人ヘリというと公園でよく見かける模型のヘリや、せいぜい農薬散布用の小さい実用ヘリぐらいに思ってしまう。だが、軍用は今でもけっこう大型で単座単発ぐらいはあり、探査能力が高く、いずれはロケット弾やミサイルを積んで無人戦争を行うほどになるようだ。変種ヘリとして注目すべきはティルトローター機である。離着陸やホバリングには、普通のヘリのようにローターは立てて使うが、高速移動にはローターを横に倒して飛行機となる。揚力は翼が受け持つのだろう。
カムチャッカ半島にクルーズで行ったことがある。火山地帯をヘリで観光飛行するオプショナル・ツアーが人気であった。すばらしい自然の景観に喝采したら、操縦士が悦に入って、腕の限りを尽くして低空飛行して見せたそうであった。旧ソ連軍払い下げの中古のヘリだというので、我々は怖じ気が出て搭乗しなかった。今でも乗らなかったことを残念に思っている。本書には米国以外のヘリについても概説してある。カムチャッカの観光ヘリは10人乗ってもまだ余裕があったと言うから、Mi-24(ハインド)だったのかも知れない。EU諸国軍はEU製のヘリを多数採用している。日本では偵察用1機種だけが国産というのに対し、戦闘ヘリとか攻撃ヘリとかを何種類も製造している。
木更津に自衛隊の基地があり、ヘリが住まいのある千葉上空をよく通過してゆく。でも身近に見たことがない。目前に見たのは、昨年の海フェスタよこはまで、海上自衛隊がヘリによる救難訓練を見せてくれたときがはじめてだった。つくづく私は平和国の民だと思う。

('10/03/09)