花Q&A100題U

本文は、田中修:「花のふしぎ100〜花の仲間はどうして一斉に咲きほこるの?タネづくりに秘めた植物たちの工夫とは?〜」、サイエンス・アイ新書、'09を読んでの感想「花Q&A100題」の続編である。100とはたくさんと言う意味かと思っていたが、本書には丁度100題入っていた。著者の人柄を思う。
雌しべと雄しべを同居させている花も、出来れば自家受粉したくない。近親結婚は不都合だから。他家受粉に都合のよいように、たとえば雄しべと雌しべの成熟期をずらすといった工夫がこらされているという。だが他家受粉が出来ないときだってある。エンドウは他家受粉が出来なければ自家受粉で豆を作る。遺伝的には望ましくなくても、豆を作らないよりましという寸法だ。リンゴやナシにたいしては人工授粉させるが、あれだけ大きな果実がとれるのだから手間をかける値打ちがある。豆がもしも自家受粉の能力がない植物だったら、人類は農作物に考えなかったであろう。
たまにエンジェル(ス)・トランペットという野草に出会うことがある。名前から彷彿とされる優美な姿である。木立朝鮮朝顔とも言う。大柄な花で人目に立つが、都会の野草の悲しさで清掃人夫に刈り取られるからだろう、見つかる場所は毎年異なる。朝鮮朝顔には何種類かあるようだ。華岡青洲は世界で初めて乳ガンの外科手術を行った。そのときの麻酔剤はそのどれかからの煎じ薬である。朝鮮朝顔は茎と言わず種と言わず葉と言わず全体にアトロピンを含有する。「華岡青洲の妻」という映画があった。主題は嫁姑の確執だが、最先端の科学者の苦悩もよく描かれていた。「二番目で何が悪い」の仕分け人(蓮舫民主党参議院議員(東京都))は見たことがないのであろう。眼球の診察をするとき瞳孔を開ける点眼薬としてもアトロピンは使われている。片目づつ使うのだが、当面は目の焦点調整機能は回復しないから、片目で歩くことになる。我が家に帰り着くのにひどく危険な思いをした覚えがある薬である。ブラシノキは本当にフラスコを洗うのに用いるブラシそっくりだ。法華寺で始めて見たことを覚えている。私が花に興味を持ちだしたきっかけは、お寺で様々な種類の木を鑑賞したことであった。
風媒花の花粉は数キロから200キロの遠方まで飛ぶとある。私は現役の頃に内陸の空気中の塩分を測定したことがある。電子産業日本の時代に半導体集積回路工場が地方の辺鄙な場所に続々作られた。微量でも空中の塩の飛沫は集積回路の敵であった。不良品数と塩濃度が比例すると言われていた。測定してみると海岸線といわゆる内陸部との間にそう大きな濃度の隔たりはなかった。花粉が200キロ飛ぶと聞いてもさほど驚かなかった。
花の汎用色素アントシアニンに七変化という名前が奉ってある。環境のpH次第で赤橙黄緑藍紫何でもござれの発色を請け合う。ブルーベリーのアントシアニンは、明け方の視力を増強するという二次大戦時の英国空軍爆撃機乗組員の逸話は出てこなかった。アントシアニンは総称である。アントシアニンの発色は、虫媒花鳥媒花が虫や鳥を引きつけるためと、太陽光線により発生した活性酸素をつぶす還元剤としての働きで花の損傷を防ぐ目的を持つ。後者は光線が強いと花の色は鮮やかになる理由だ。花ばかりか青白い果実でも太陽が当たると真っ赤になったりする。タンポポを好条件で育てると葉の幅が10cm、直径が1mというおばけタンポポにまで生育するという。でも生殖器官は無関係で、小さな花に小さな実だったというのもおもしろい話であった。
ヒトでは年がら年中繁殖期だ。少なくとも高等生物界では特異な存在だ。NHK番組「ダーウィンは来た!」に紹介されるほどの動物には、どの種にも例外なしに短い繁殖期がある。そのときだけ群れを作る種も多い。植物にはヒトに相当する種は南方に数多く存在する。私は南西諸島に旅行するようになってから実感するようになった。ブーゲンビリア、ハイビスカス、ユウナ。いつ行っても花を咲かせている。四季のある日本には、2度咲く花はあるが、その手の植物は見あたらないように思う。高山植物や北国の植物はもっと大変だ。短い期間に一斉に花開き種を散らかせて生命を短期に終わらせる。一斉は命の短いものそれから弱いものにとって重要な因子だ。次々と花を咲かせることができる場合なら、個々の花が一日花でも生命体の種子形成のチャンスはそこそこに大きい。一日花の極端にハゼラン別名「三時の天使」が紹介されている。午後3時に花が開き始め、4時に全部が開花、3時間後に花を閉じる。正確なんだそうだ。体内時計はどの植物でも光と温度を基盤にするが、その働き具合は様々のようだ。朝顔では暗くなってから10時間後に開花と決まっている。チューリップは温度で朝に開き夕べに閉じる。
花の開閉に細胞内のデンプン粒が働く。開くには花びらの内側のデンプンをブドウ糖に加水分解する。ブドウ糖は水溶性だから、細胞内の浸透圧が高くなるため、内側の細胞は水を吸って大きくなる。だから外に向かって反り返る。花が萎むときはこの逆で、外側細胞のデンプンが加水分解を受け水でふくらむ。チューリップなら10日はこれを繰り返す。デンプン粒が尽きた時点が10日後というわけであろう。この仕組みのスイッチが上段の通りチューリップなら温度だが、その詳細な機構はまだ解明されていないようだ。学者の書く本は話の限界をきっちり示してくれるので安心して読める。ジャーナリスト系の本と違う点である。ハゼランは三時だったが、オシロイバナは四時だそうだ。日本の夏では六時で、「夕化粧」「飯炊き花」という別名があるとあった。ツキミソウは複雑な開花機構で花を夕暮れに開く。開花前日の夕暮れ時から2過程を経て開花にたどり着く。
花成ホルモン−フロリゲン−の話が登場する。私はこの話題に興味があって、このHPでも何度か取り上げている。一番新しい情報は、HP:「四月のレジメ」の、奈良先端科学技術大学院の島本功教授のグループが、フロリゲンの存在が提唱されてから70年目にして初めて証明したという昨年のニュースであった。フロリゲンの話はサツマイモの花から始まる。サツマイモは本州では花をつけない。でもおなじヒルガオ科のアサガオに接ぎ木(草?)するとアサガオにつられて花をつける。アサガオの葉が長い夜を感じるとフロリゲンを作り、サツマイモにもお裾分けするからサツマイモに花が咲くのだ。
フキノトウは私の好物である。あの苦みが忘れられない。フキのツボミだ。雌雄の区別があるが、どちらがどんなだったとは覚えていない。フキは春が来るとまず花茎を地上に出す。冬の寒さを経験した地下茎がジベレリンを作り出しそれが花茎(茎は見えないほどに短い)の刺激になる(本書にはフキは例示されていないが、おそらく同じだろう)。葉はまだ出ていないから狭義のフロリゲンとは縁がない。でもややこしい話だが、広義には花成ホルモンだと思う。フキノトウが店頭に出てくると、雪解けの頃に北国の山野に人知れず地表に顔を出した萌葱色の可憐な花芽を思う。私は猪苗代湖の湖畔で見たことがある。でも八百屋に出てくる商品は栽培品だろう。本書の記述がフキにも当てはまるのなら、冬の寒さのない南国でも、ジベレリン刺激によってフキノトウは作れるはずだ。そのうち沖縄産のフキノトウが、食卓を飾るかもしれない。

('09/12/21)