
- 「二十四の瞳」では修学旅行が金比羅さんだった。大石先生が引率する小豆島の小学校の生徒が参道の石段を上って行く。両脇からみやげ物店の売り子たちが人を呼び込んでいる。うら若い女達である。
- 私は学生時代に一度訪れている。その時の記憶はあまりない。石段の多い神社仏閣は他にもあるし、建築もとりわけ古くもなく大きくもなく、さりとて美術史に残る彫刻絵画があるわけでもない。売り子は目が肥えているから貧乏学生の袖など引っ張らぬ。ただ一つ宿だけはとても印象深かった。もう旅行も最後に近かったから金欠も甚だしかった。そこで取って置きの手段で安宿を探した。警察署に厄介になったのである。警察は食い詰めゴロンボ、宿無し浮浪者その他諸々のためにかけ込み宿を確保していた。婦警さんが出てきて親切にもっとも安いという宿を紹介してくれた。外観堂々たる大旅館だったが、案内された部屋は片づいてはいたが畳は笹くれだち障子は茶茶けて雨漏り模様の、それはそれは「立派な」お部屋だった。やりてばばぁとおぼしき人物が応対に出てくる。旅館に楼と言う字がつくから解るように昔と言ってもついこの間まで伝統の行楽地の旅館は「曖昧」だった。だから、やりてばばぁ。私はむしょ帰りの宿無しらしい。ともかく警察が立て替えなくて済む、れっきとした一人前の観光旅行者であることを解らせるのにだいぶ骨をおった。
- 一人旅流行っている。冒険旅行にあこがれる人もいる。旅行は人を大きくする。大いにやると良い。でも無事に帰ってきて欲しい。相手がどう受けとめるかを常に意識して置くこと。海外旅行だったら国内の何倍かの安全率を掛けて行動するように。何年か前に、もう就職が全員決まって、ひち難しい話など聞く雰囲気になかった最上級生にした夏休み前のお話。
- 今度久しぶりに行った金比羅さんはまた違った印象で私を迎えてくれた。参道両脇のみやげ物やの売り子は熟女に代わりもう呼び込みなどしない。それに代わったのがうどん屋の呼び込み合戦。これは見物だった。JR琴平駅から境内に達するまで20軒はあるのではないか。昼時だった精もあって軒並みである。ことに鳥居前の二軒は華々しい。かたや陛下もお泊まりになったと言う老舗の経営、かたや実演が売り物のたぶん新興うどん。掛合に近い呼び込みだった。四国に旅行するなら昼時ぜひ琴平へ。
('95/05/01)