マグマの地球科学
- 鎌田浩毅:「マグマの地球科学−火山の下で何が起きているか−」、中公新書、'08を読む。この前に「地震と防災」を読んだ。相補い合う内容のはずだと思って購入した。浅間山が2/2に高さ2千mの噴煙を上げたばかりである。東大地震研は火山を透過する素粒子ミューオンの観測結果から、今回の噴火は水蒸気噴出によるもので、マグマの上昇によるものではないと発表した。本書にはミューオンの利用までは出ていないようだが、「はじめに」に最近30年の進歩をレビューするとある。
- 大陸移動説、プレート・テクトニクス理論あたりは若い頃に聞いた。TVで大西洋中央海嶺が海底ケーブル敷設の時に発見されたと聞いたことがあった。今より150年以上昔の話で、大陸移動説よりも59年も以前のことだった。湧き出たマグマがプレートを東西に押し出す。本HPの「海のなんでも小事典」に少々触れてある。太平洋の中央海嶺である東太平洋海膨が同じような活動を行っている。陸地ではアフリカ・プレートの中心の東アフリカ地溝帯が目に見える裂け目である。あれは紅海の中央海嶺に繋がっている。SF洋画に、惑星接近でアフリカ・プレートが衛星となって分離する作品があったと記憶する。本書にはマグマの3/4が中央海嶺から噴出されると書かれている。
- ホットスポットは初見の知識であった。ハワイ諸島火山群は、ホットスポットが作った軌跡の代表例だ。西側程古い。日本の火山は、他の環太平洋火山帯に属する火山と同様に、プレート同士の衝突で一方が沈み込む地帯に生まれたもので、性質が異なる。太平洋プレート真下の上層マントルからマグマの供給を受けている。プレートはマントルの上を移動する。マントルも熱対流で動くが、プレートに対しては遅いものらしい。マントルからの噴出ルートが固定しているから、プレートの移動によって地表の吹き出し口である噴火口の位置が時代と共にずれてゆく。間欠泉で有名なイエローストーン国立公園は大陸に出たホットスポットという。移動していった過去のホットスポットの位置と現在のそれから、プレートあるいは大陸の移動速度とその方向が解る。太平洋プレートは年10cmと早く、アメリカ大陸は対称的に0.5cmと遅い。
- 「プレートはマントルに載って浮游する。火山の溶岩はマグマで、その供給源がマントルだ。地球は中心に向かう程熱くなる。マントル、さらにその下は液体だ。」と思っていた。本書によると外核は液状だが、マントルと内核は固体だそうだ。地震波で解るという。さらに、岩石が、半融と言うか、軟らかくなった薄い地帯が地表より100kmあたりに存在する。マグマ源だ。マントルは岩石、核は金属が主要成分である。温度は地表から浅い場所では30-60℃/kmの地温勾配を示すが、200kmあたりからそれが1程度になり、中心で5000℃になる。融解温度と地圧の関係が物質の状態を決めている。岩石の融解曲線と地温曲線が接近する場所がある。マントルには熱対流があり、熱い上昇流のために地温曲線が時には融解曲線と交差する場合がある。プレートが衝突して片方が沈み込む場所では、その片方はやがてマントルに吸収されて姿を失う。プレートからは揮発性の物質、水、二酸化炭素、ハロゲン元素、アルカリ元素などが供給される。すると岩石の融点が劇的に低下して、地温曲線を下回る可能性が出てくる。日本列島の火山のマグマはその典型である。
- 地球がこんなに熱いのは、その成因にある。40数億年昔に星くずが引き合って塊となり原地球になった。その時の星くずが持っていたポテンシャル・エネルギーが運動エネルギーになり、さらに衝突で熱となって今日に伝えられている。何だか半信半疑なのだが、学者はそう言う。地熱源の1/10ぐらいは放射性元素の崩壊によるものらしい。ほかに月の引力が海の干満を引き起こしているが、あれも結局は自転のエネルギーを熱に転換している。あとは太陽光他の輻射エネルギーと言ったところだろうが、その割合は微々たるものであろう。
- 岩石は複合体だから、融点の低い組成から融解し、固体成分を包み始める。溶融物が増えて、液体が連続体になると塊は流動性を獲得する。溶融体と周辺固体との密度差がマグマ上昇の原動力だ。水糊の中を気泡が上昇するようにと表現してある。その気泡に対応する溶融体固体混合物の塊がダイヤピル(直径が30-50kmにもなるという)という名だそうで、地殻に接すると環境によって様々なストーリーを展開させる。地殻の方がダイヤピルより密度が低いために接面で滞留時間があり、マグマ溜まりができることから話が始まる。マグマ溜まりは直径が数kmから10kmほどのものと書いてある。その間に冷却しつつ、高融点組成を析出分離する、また地殻岩石の溶融混入も起こるから、組成変化が起こる。マントル組成に近い順に並べると、非アルカリ岩の系列では、火山岩はカンラン岩、玄武岩、安山岩、デイサイト、流紋岩となる。日本の火山には安山岩を噴き出すものが多いという。
- 60年以上昔だが、中学生だった私は生物班にいた。今ならエコ・クラブとでも言うだろうか。そのクラブに鉱物好きの上級生がいた。化石も生物班の所轄だったからだろう。彼から京都・大文字山の花崗岩には放射能があり、写真の乾板をかぶれさせると聞いた。犯人はトリウムである。本書には同じアクチノイドのウランが非適合元素だとしてある。だから多分トリウムも同じだ。海水に浮かぶ氷に殆ど塩分が含まれないのと同じで、非適合元素は、融液が接触していると、固体から容易に吐き出されてゆく。沈み込むプレート(ここではフィリッピン海プレート)から放出される非適合元素を多く含んだ液体が、その上に横たわるくさび状のマントルを溶かして化学組成を変化させると書かれている。花崗岩は地表まで流れ出たら流紋岩となった岩石だそうだ。マントルから一番はずれた火山岩という意味でも、マグマが生成直後から幾多の変化を受けてきたことが解る。
- 実験岩石学の説明がある。マントルに近いカンラン岩を実験室的に熱して地中のマグマ状態を再現させる。マグマ溜まりから地殻を上昇するとき、周囲の岩盤から岩石を溶解して混じり合い化学組成を変える。そんな状態を実験再現するのはちょっと難しかろう。だが結晶分別作用はモデル実験で検証できるだろう。地学で取り扱う温度、時間、圧力は人の扱える実験スケールではないから、スケール効果を評価する方法の確立が必要だ。工学では無次元数に置き換える方法をしばしば用いるが、地学ではどうするのであろうか。結晶分別作用の評価ではコンピュータ・シミュレーションも有効だそうだ。溶岩の噴出期別観察や熱溶岩の冷却に伴う結晶変化の観察は、それ以上に重要な情報を伝えるであろう。地震観測によるマグマ溜まりの観測が述べられている。
- コラムに地球深部探査船「ちきゅう」プロジェクトの解説がある。大洋洋上からボーリングして、プレートの地震の巣と思しきあたりから直接岩石サンプルを採取し、その穴には地震計を設置するという。計画は新聞で見たことがある。でもその探査船が6万総トンに近い巨船で600億円をかけたとは知らなかった。日本のお役所は箱もの主義で、船が出来るともう研究費には冷淡だと嘆いてあった。でも地震波ぐらいにしか頼りになる方法の無かった地球深部構造研究に、画期的なお道具が備わることになる。2016年頃に最初のサンプルが手にはいるという。それまでぜひ生きていたい。
- 三宅島噴火の警報で島民が避難した事件は記憶に新しい。噴火予知はもう実用段階に達している。噴火の前兆は火山それぞれに個性があって統一性はないようだ。でも地震と違って、マグマ溜まりという災害基点があって、その位置がほぼ確実に把握されており、活動状況が振動、地面の膨張収縮、放出ガスの量と性状などで診断できる。内科医が内臓の状態を呼気排泄物あるいは聴診器で診断しているようなものらしい。火山噴火の派手なパーフォーマンスは、上昇マグマに溶解していた揮発性成分(水である場合が殆どという)が、過飽和状態に耐えきれず、ついに核沸騰を始めるために起こる。理解のために、純水の物理的変化に対する用語から過飽和とか核沸騰という言葉を転用してみた。実際はマグマが上昇して圧力が取れるために、角閃石が化学変化を起こし、非含水鉱物化して水を放出するために起こるとある。では水はどこから来るか。
- 天然原子炉の話は有名である。地球にかって自然に出来た原子炉があった。その証明の有力な手段として同位元素比が用いられたと記憶する。同位元素比が違うことは、この世では普通にはあり得ない出来事を予想させる。噴火で出てくる揮発性成分の同位元素比は地上のそれとかなり違う。溶岩が地表に出るまでにマグマは水といろんな形で出くわし吸収しているはずだが、マントル起源のものもある。沈み込み帯の火山つまり日本の火山では10%ほどだが、中央海嶺では顕著に多い。それからも沈み込むプレートが水を補給していることが解る。水分は溶岩全体の10%にもならないと言うが、気化すれば膨大な体積になるから、何十kmもの上空にまで噴煙を吹き上げるのに十分なdriving forceになるのであろう。
- マグマ溜まりが冷却し固化し周辺が浸食されて、とうとう露出した結果の巨大岩塊は世界のあちこちに見られる。花崗岩の岩体がその代表だそうだ。掘削技術の進歩で、地下のそれも見つかっている。岩手県のさる場所では3kmも掘り進んだら600℃の花崗岩を掘り当てた。溶融状態のマグマ溜まりの外側だそうだ。雲仙の火砕流は未だ記憶に生々しい。そこでも国際掘削プロジェクトが、溶岩ドーム直下1.6kmの位置に、マグマの火道を掘り当てた。地底の構造が実証されつつある。
- 地熱利用でまず頭に浮かぶのは発電である。私は九州勤務の時九重連山に何度か登った。芹洋子の坊ガツル(注:連山に囲まれた盆地)賛歌に、「みやまきりしま咲き誇り」と言う歌詞が出てくる。あの季節が一番いい。長者原付近に駐車して登り、日帰りで帰る。戻りにちょっと細道に脱線して、うたせ湯で有名な筋湯温泉で汗を流す。そこから国道442号線に出るのだが、途中に八丁原地熱発電所が見える。私の古い機械工学便覧によると、九電は昭和28年頃より実用化のためのボーリングをやっていたという。はじめは成功しなかった。八丁原は猪牟田カルデラと九重火山下の新マグマのお陰だという。前者は直径は8kmほどで地層の下に埋もれていたため長い間発見されなかった。これが巨大な水瓶として地熱貯留層となる。後者は熱源だ。双方の間隔は12-3kmだから蒸気採取孔はカルデラから外れた位置なのか。九重連山にはカルデラは生成しなかった。一方猪牟田カルデラはもう活動力がない。地層下では、割れ目の水管がカルデラの水瓶と繋がっていて対流を起こしていると言うことだろうか。
- 鉱脈の成因、噴火による気候変動にも触れてある。
('09/03/11)