鮭の浸透圧


浸透圧の講義の後でどんな場合に浸透圧を感じるかと問うた。人工透析。フンフン。海水浴で目が赤くなった。ウン。血を真水に入れると溶けて真っ赤になる。なるほど。痔になると洋式便器では溜まりが真っ赤に染まるあれだな。お湯に浸かると若返る。さすが女子学生。乾いた皮膚が水を吸って張りを取り戻すんだ。おばんになったら海水浴には行くなよ、海水の方が浸透圧は高いんだ。しわが増えるよ。みんな命と関連づけて理解している。世界に誇る電子産業の純粋製造装置が逆浸透圧法を利用する話は出てこない。工業化学を教える身にはちょっと寂しいが、話が意外に出来の悪いのにも浸透していることに救われる。
ここでエビにトリカイ、タコにイカ干物にしたら何ぼーかおいしかろと云ってみる。脱線するまで目を明けない連中がやっとお目覚めである。もう卒業したある学生がアンケートに答えてこの授業は脱線ばかりだったと書いた。嘘も甚だしい。脱線はせいぜい一割である。
彼は脱線の時しか目を明けておらなかった札付きだった。これからはアンケートに脱線の割合を書かせて内申点を付けてやろう。さて元歌は笠置しずこの買い物ブキウキのつもりである。そんなことを云うと年が知れるがこの歌を聞いたのは遥か昔子供の頃だった。口に入るものがあったらまだ幸せで大都会では戦災孤児が現役だった。食いものの歌は満たせない食欲を刺激して大流行した。この元歌と同じなのはタコにイカぐらいであとの魚はどうだったか記憶にない。確か刺身の材料だったような気がする。干物にしたらといったのは食いもので恩恵に預かっている例を出したかったからである。
こいつらは塩水濃度に体液浸透圧を合わせる能力があるから水分通通、だから乾物(カンブツ)になり易い。おっと乾物などは通用しない、干物と言い直す。これが引き金でインスタント食品がどんどん挙がった。私は乾物に拘って生理食塩水の話を出したついでに人間の浸透圧が海水より低いのは昔昔太古の時代にご祖先が海から陸生になられたときの名残である。その頃は海水は今よりずっと薄くて生理食塩水ぐらいだったと云おうとしてはっと口をつぐんだ。今でも考古学ではこう教えるのかしら。碩学の諸兄よ。我に教示下され。

('94/10/04)